| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-03 (Oral presentation)
昆虫の卵が晒される生存リスクには、捕食者や捕食寄生者・病原菌などの生物的なものから、乾燥や紫外線等の物理的障害がある。これらのリスクに対し、産卵時に植物由来の樹脂を塗布する南米のサシガメApiomerini属などで、卵の保護行動が報告されている。本研究では、西南日本に分布するヨコヅナサシガメAgriosphodrus dorhniを対象に、卵の保護行動を観察した。本種は、サシガメでは珍しい集合性を示し、桜などの樹幹部に集団で生息している。その洞や窪みに卵塊を産下するが、その卵塊表面は光沢のある膠状物質で覆われている。しかし、室内飼育条件下で羽化交配した雌成虫は産下卵を膠状物質で覆わず、野外採集した既交尾雌成虫は同条件下でも卵塊を膠状物質で覆うことを今回見出した。このことは、野外の雌成虫は交尾前後に膠状物質の元となる樹脂状物質を獲得している可能性を示している。そこで、成虫が活動する5月上旬に京都市嵐山近辺で既交尾雌を10個体採集し、解剖して体内組織の観察を行った。組織を摘出すると、卵巣に付随して確認された特徴的な付属腺(subrectal gland)に膠状物質が蓄えられていた。それを採集時に複数の樹種から回収した樹脂成分と薄層クロマトグラフィーで比較したところ、松脂との共通するスポットが検出された。この結果を踏まえ、色素を混合した松脂を提示したところ、既交尾の雌成虫はそれを前脚でぬぐい取り、中脚から後脚の順に受け渡した後、腹部末端から体内に取り込む行動が観察された。また、体内付属腺中が色素により着色されていること、産下した卵塊に塗布された膠状物質も着色されていることを確認した。このような一連の産卵行動は、他種のサシガメでは知られていない。本講演では映像を交えて本種雌成虫による一連の樹脂取り込み行動を紹介したい。