| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) B01-04 (Oral presentation)
昆虫類の生活史において、卵は風雨や乾燥による物理的な損傷および捕食者や寄生者による攻撃を受けやすいステージである。そのため親は仔の生存率を上げるために、適切な産卵場所を選択したり、卵自体に何らかの物質を塗布したりして保護しようとする。特に、親が自身のフンを利用して卵を保護するという行動はいくつかの昆虫種で知られている。例えば、イモゾウムシのメスはフンでつくられた蓋で産卵孔を塞ぐことにより、湿度維持や捕食者からの保護を行なっていると言われている。
演者らは、水田畦畔の湿った泥上に生息するガムシ科のセマルガムシCoelostoma stultum (Walker, 1858) において、メスが作り終えた卵嚢上に自身のフンを塗り広げることを発見した。本研究では卵嚢上に塗布されたフンの役割を明らかにするために、室内実験と野外操作実験を行なった。室内実験では、産卵直後の卵嚢を野外から採集し、12時間以内にフンを除去した卵嚢と除去しなかった卵嚢の間で孵化までの日数および孵化率を比較した。どちらの処理区においても孵化までの日数は約7日、孵化率は83〜100%であった。野外操作実験では、産卵中のメスを塗糞行動の直前に除去した塗糞なしの卵嚢、メスを除去せず塗糞まで行なわれた塗糞ありの卵嚢をそれぞれ野外に放置し、3日後に回収して卵嚢の状態と孵化率を記録した。その結果、塗糞ありの卵嚢では全卵嚢のうち約80%の卵嚢が孵化したのに対し、塗糞なしの卵嚢では約40%と低かった。孵化しなかった卵嚢の多くは穴が開けられており、内部の卵が消失していることが多かった。野外観察により、塗糞していない卵嚢ではワラジムシやオカダンゴムシ、ノハラナメクジ科の一種が卵嚢を食い破り、卵を捕食していることが明らかになった。以上より、セマルガムシのメスによる卵嚢への塗糞行動は捕食者に対する卵保護の効果をもつことが示唆された。