| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-05 (Oral presentation)
マルハナバチは昆虫体表炭化水素を着地面に付着させ、そのにおいをセントマークとして用いる。セントマークと報酬の連合学習により、セントマークのある花に誘引されたり忌避されたりする。セントマークを利用すると、報酬の少ない花への無駄に採餌を避けることができる利点があると考えられる。一方、セントマークの認識にエネルギー的・時間的コストが必要と考えられる。利点とコストは状況に応じて変わる。例えば、花間距離が長いと空花を採餌してしまうコストが大きくなるため、セントマークの利用がより有益であるだろう。本研究では、花間距離に着目し、マルハナバチによるセントマークの利用様式が、利点とコストの相対的な大きさによって変化するか調査した。実験はクロマルハナバチと人工花を用いて室内で行った。セントマークと報酬のある花と、セントマークと報酬のない花をランダムに配置し、ハチによる巣からの一連の訪花パターンを連続して5回記録した。報酬の有無による効果とセントマークの効果を区別するため、6回目の訪花パターンは全ての花に報酬がない条件で観察した。1回目の訪花では、においの効果はみられず、花間距離が短い時に比べ長い時は採餌率が高かった。5-6回目の訪花は、花間距離の影響はなく、セントマークの有無を認識し、報酬のない花には着地・採餌する率が低かった。以上より、マルハナバチはセントマークと報酬との連合学習を行い、着地・採餌するかどうかを決めることが分かった。学習前は花間距離が長い花への採餌率が低かったが、学習を行うと、花間距離を考慮せず、セントマーク情報のみを利用していた。このことから、マルハナバチは迅速にセントマークを学習し、行動を変化させることがわかった。飛行コストが増加しても、セントマークがうまく報酬量を示している限り、セントマークのある花を選択的に訪問することで安定した報酬の獲得を目指しているのかしれない。