| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-07 (Oral presentation)
水生生物は,単位距離を移動するのにかかるエネルギーコストを最小とする「最適遊泳速度」で遊泳するとされる.はばたき遊泳を行うアカウミガメの巡航遊泳速度は約0.5 m s-1で,同じくはばたき遊泳をするペンギン類(約2.0 m s-1)より遅い.これには休止代謝速度の違いが関与していると推察されてきたが,定量的な検証は行われていない.本研究では (1)ウミガメ類は実際に最適遊泳速度で遊泳するか否か,また(2)ウミガメ類の巡行遊泳速度は何の要因に左右されるかを検証した.2010から2019年の夏季の間,三陸沿岸域の定置網で生きたまま混獲されたアカウミガメ16個体とアオウミガメ9個体に行動記録計を装着して放流し,巡航遊泳速度と抵抗係数を求めた.また,ウミガメ31個体の前面投影面積を計測し,体重との関係式を算出した.抵抗係数,前面投影面積,休止代謝速度(既往研究で測定)から推定されたウミガメ類の最適遊泳速度は0.22−0.37 m s-1となり,実際の巡航遊泳速度0.28−0.51 m s-1と同程度であった.したがって,ウミガメ類は最適遊泳速度で泳いでいると考えられた.ウミガメ類の休止代謝速度は,同じ体重のペンギン類の約20分の1で,ウミガメ類の前面投影面積に対する抵抗係数はペンギン類のそれよりも8.6倍高かった.これより,ウミガメ類の巡航遊泳速度が遅い要因として,ペンギン類に比べて低い休止代謝速度に加えて,前面投影面積に対する高い抵抗係数が挙げられた.