| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-10  (Oral presentation)

南極マクマード湾におけるウェッデルアザラシの生態に関する研究
Ecology of Weddell Seals in McMurdo Sound, Antarctica

*岩田高志(東京大学大海研), GOETZKim(NOAA FISHERIES), 高橋晃周(国立極地研究所), HOLSERRachel(UCSC), MICHAELSarah(Massey University), PINKERTONMatt(NIWA), 青木かがり(東京大学大海研), 佐藤克文(東京大学大海研)
*Takashi IWATA(AORI, University of Tokyo), Kim GOETZ(NOAA FISHERIES), Akinori TAKAHASHI(NIPR), Rachel HOLSER(UCSC), Sarah MICHAEL(Massey University), Matt PINKERTON(NIWA), Kagari AOKI(AORI, University of Tokyo), Katsufumi SATO(AORI, University of Tokyo)

 ウェッデルアザラシは南極海生態系における高次捕食者の一種であり,地球上で最も南に生息する哺乳類である.母アザラシは夏の期間(11-12月)に出産をし,約1ヶ月間仔育てをすることが知られているが,その期間にどのような時間配分でどのような行動をしているのかといった生態的知見が不足している.本研究では,授乳期間中のウェッデルアザラシの基礎的な生態を理解することを目的とし,行動とその時間配分を調べた.
 2018年11-12月に南極マクマード湾で野外調査を実施し,母アザラシの背中に地磁気加速度記録計,頭にビデオ,下顎に加速度記録計をエポキシ接着剤で装着した.数日間行動を記録した後,動物を再捕獲して記録計を回収し,データ解析をした.アザラシの行動を氷上での授乳と休息,浅い深度帯での遊泳(深度20メートルより浅い),深い深度帯への潜水(深度20メートル以深)の3つに分類し,それぞれの時間配分を計算した.下顎の動きからアザラシの捕食イベントを検出した.
 背中もしくは下顎に装着した記録計から合計19個体分の行動データ(平均90時間),そのうち17個体からビデオデータ(平均2.3時間)を取得した.記録期間に対する行動の時間配分は,氷上での授乳と休息65±16 %,浅い深度帯での遊泳24±10 %,深い深度帯への潜水11±14 %となった.授乳期間中のウェッデルアザラシは,半分以上の時間を授乳や休息に費やしていたことが明らかとなった.ビデオデータには浅い深度帯で他個体との触れ合いが記録されたことから,アザラシは社会行動のために,水中の浅い深度帯で遊泳している可能性が示唆された.一方で深い深度帯では餌を捕食する様子がビデオに記録された.また深度100メートル以深で下顎の動きからの捕食イベントが検出され,それらは1潜水で90回以上記録されることもあった.これらの結果から,アザラシの深い深度帯への潜水は採餌のためであり,またそこにはアザラシにとって良い餌場が広がっていることが考えられた.


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