| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-04  (Oral presentation)

特異な生息環境・避難場所としての湧水河川の生態系機能
Ecosystem functions of spring-fed stream in the formation of unique habitats and refugia

*境優, 岩渕克哉, 星剛介, 脇谷量子郎, 鷲谷いづみ(中央大学)
*Masaru SAKAI, Katsuya IWABUCHI, Gosuke HOSHI, Ryoshiro WAKIYA, Izumi WASHITANI(Chuo Univ.)

地下水の湧出によってもたらされる湧水河川は、非湧水河川と比べ水温・流量などの点で安定した生息環境を形成している。そのため、湧水河川は特異な生息環境と温度ストレスや洪水攪乱を回避するための避難場所を提供していると予想される。本研究では、北海道の黒松内低地帯を流れる朱太川水系において湧水支流と周辺の非湧水河川を対象に生息環境と生物群集の構造を把握し、特異な生息環境・避難場所という側面から湧水支流が有する生態系機能を評価することを目的とした。
湧水支流では、水温・流量ともに周辺の非湧水河川と比べ季節変動が小さかった。その結果、湧水支流の河床細粒土砂の被度は他河川よりも高く、湧水支流の安定した流量は河床土砂の流亡を緩和していると考えられた。さらに、湧水支流ではユスリカ科が高いバイオマスで生息していることが判明し、細粒土砂に潜って生活する掘潜型の底生動物に好適な生息地を提供していると推察された。
次に、対象とした水系に広く分布するヤマメの胃内容物に注目すると、湧水支流ではユスリカ科が多く含まれ、胃内容物の総バイオマスは他河川よりも多かった。以上のことから、湧水支流に高密度に生息する掘潜型の底生無脊椎動物は、魚類の主要な餌資源として利用されることが明らかとなった。また、相対的に水温が高くなる冬期では、湧水支流でヤマメの生息密度が特に高く、湧水支流は冬期の低温ストレスを回避するための避難場所を提供していると推察された。
降雨前後の湧水支流の魚類相調査では、いくつかの遊泳魚が降雨に対して上に凸の個体数変動を示した。一方、本流部の礫河床を主な生息地とする底生魚では降雨時でも湧水支流で個体数が増加しなかった。このことから、湧水支流は洪水攪乱時に主に遊泳魚に避難場所を提供していると考えられた。以上より、湧水支流は特異な生物群集を成立させるだけでなく温度・流量の観点から避難場所も提供しうると結論された。


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