| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-05 (Oral presentation)
鳥取県ではダニ媒介感染症の一つである日本紅斑熱が2008年以降,継続的に発生している.また,現在のところ鳥取県内での報告例はないものの西日本全域でSFTS(重症熱性血小板減少症候群)が深刻化しており,これらマダニ媒介感染症の被害抑制のためにもマダニ分布制限要因の解明は重要な課題である.本研究で調査地とした鳥取県東部は,現在もシカの高密度化,分布拡大が進んでいる地域であることから,本研究では,シカの個体群密度がマダニの分布に及ぼす影響に注目し,その解明を目的とした.
鳥取県東部のスギ林28地点を調査地とし,多くの種の成虫が発生する初夏(6月),および幼虫の発生時期である秋(10月)に旗ずり法にてマダニ類を採集した.また,シカの個体群密度の指標として400m2内のシカの糞塊数をカウントし,また,調査地の環境データとして林床被覆率,樹木数,樹冠開空度,および標高を計測した.
採集された個体を全て種同定した結果,合計10種(未同定種含)14,490個体のマダニ類が採集された.標高が高く自然性の高い環境ではオオトゲチマダニとフタトゲチマダニが優占する傾向にあり,標高が低く周辺に耕作地が多い環境ではキチマダニが優占する傾向があった.マダニ個体数を目的変数,シカの糞塊数や森林環境データ(樹木数,林床植被率,樹冠空開度,標高)を説明変数としたGLMを構築することでマダニの個体数に及ぼす要因を検討した.その結果,採集個体数の少ない成虫については,帰無モデルが選択されることが多く,分布制限要因を推定することができなかった.一方,全個体数や優占種(オオトゲチマダニ,フタトゲチマダニ)の若虫・幼虫においては,シカの糞塊数(個体群密度の指標)が重要な分布制限要因であると推定された.