| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-07  (Oral presentation)

魚類群集動態の異常検知:原発温排水サイトにおける長期観測データの解析
Anomaly detection of the fish community near Takahama nuclear power plant:an analysis of long term monitoring data

*大友優里(東北大学), 益田玲爾(京都大学), 長田穣(東北大学), 川津一隆(東北大学), 近藤倫生(東北大学)
*Yuri OTOMO(Tohoku Univ.), Reiji MASUDA(Kyoto Univ.), Yutaka OSADA(Tohoku Univ.), Kazutaka KAWATSU(Tohoku Univ.), Michio KONDOH(Tohoku Univ.)

近年、地球温暖化や環境の人為撹乱などに伴う生態系の変化が問題となっている。生態系の有効な保全・管理を実現するためには、生物群集に生じた「異常」を検出できるようにすることが喫緊の課題である。しかし、これまでの研究では個体数などを調べるにしろ、種ごとの反応を調査する研究が中心で、種数や総個体数といった「群集レベルの特性」の変動のみから生物群集の異常を検出する試みは多くない。本研究では、群集レベルの特性の観測データから、非線形時系列予測を利用してその時間変動パターンの変化を検出する手法を開発した。開発された手法は、原子力発電所の温排水の影響を受けた魚類群集の潜水目視観測データに適用し、その実効性を確認した。調査対象地である高浜原発沿岸地域では、調査期間中に原発の再稼働に伴う水温上昇が生じている。最初に、原発稼働が魚類群集に及ぼす影響の有無を確認するため、魚類群集の種数・総個体数・種多様度(2012年〜2019年)を目的変数に、原発稼働の有無を説明変数としたPERMANOVAを行った。その結果、確かにこれらの群集レベルの特性は原発稼働の有無により変化していることが示唆された。そこで、温排水放出の事前情報がない状態で、群集の観測データのみから魚類群集の変化を検出できるか確かめるために、全調査期間から得られるスライド窓(2年間、全65個)の間で、一方をトレーニングデータ、他方をテストデータとして、非線形時系列解析による相互予測を実施した。そして、得られた予測精度を元に主座標分析とクラスタリングを行った結果、原発再稼働後の魚類群集動態の変化が検出された。この成果は、種数や種多様性などの群集全体の特徴の長期観測が生物群集の異常検知に有用である可能性を示唆している。


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