| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-04  (Oral presentation)

森海連環の解明を目指した環境DNA分析 【B】
Environmental DNA analyses to clarify the ecological linkage between forest and sea. 【B】

*佐藤淳, 大月優弥, 吉本孝(福山大学 生物工学科)
*Jun SATO, Yuya OHTSUKI, Takashi YOSHIMOTO(Dept. Biotech., Fukuyama Univ.)

アカネズミ(Apodemus speciosus)は全国の森林および里山生態系の構成種であり、森の更新に関与すると考えられている。瀬戸内海の因島椋浦町における森林に生息するアカネズミの糞を対象として、葉緑体DNA trnLをマーカーとしたDNAメタバーコーディング法による食性分析を行うと、ブナ科のアベマキ(Quercus variabilis)がアカネズミの主要な食物であることが明らかとなった。アカネズミには冬に備えて秋にドングリをため込む習性があり、そのドングリの一部は芽を出すことで、アベマキの森が更新される。つまり、アカネズミがアベマキの森の持続可能性に関与することが示唆される。また、アベマキは落葉樹であるため、その葉は腐植土となり、雨に流れて海まで到達し、沿岸域の生態系を支える栄養源を提供すると考えられる。森と海との生態系の連環を検証するために、沿岸域で採取した水サンプルを対象に、魚類(MiFish)、哺乳類(MiMammal)、植物(trnL)、昆虫(16S rRNA)をマーカーとした環境DNA分析を行った。その結果、trnLの分析により陸域側から流れる水の中からアベマキが高頻度で検出された。このことは、森のアベマキの痕跡が海まで流れ着いたことを示唆する。さらに因島の沿岸域でよくみられるクサフグ(Takifugu alboplumbeus)とシロギス(Sillago japonica)の食性を、ミトコンドリアDNA COI遺伝子に基づき分析した結果、両種ともに端脚目ドロクダムシ科の動物プランクトンに強く依存することが明らかとなった。沿岸域のアベマキとドロクダムシ類との量的相互関係は定かではないが、アカネズミが維持する森は沿岸域の海洋生態系に影響を与えているようである。


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