| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-05 (Oral presentation)
二酸化炭素濃度の上昇ならびに温暖化は、樹木の成長による森林の生産量を促進させる(気候変動の有益性)が、地球の乾燥化は森林の枯死量を増加させる(不利益性)。これまで、草地実験下において、植物の多様性が高いほど生態系がより強固になり、異常気象の影響を受けにくくなるということが示されてきた。しかし、長期的気候変動下(慢性的でかつ方向性を伴う数十年~数百年に渡る変化)においても「生物多様性は気候変動による影響を緩和できるか」、ということはわかっていない。
カナダでは60年近くもの間、自然林の動態がモニタリングされている。そこで、本研究では乾燥化が進むカナダ西部の大規模長期データを用いて、「樹木の種多様性は長期的気候変動による影響を緩和できるか」ということを自然生態系において検証した。森林の、炭素を貯蔵するという生態系機能に着目し、森林が生産する量と森林が枯死する量を比較し、総体としての森林のバイオマス増減量に焦点を当てた。
約60年にわたる長期の気候変動下において、種多様性の高い森林では、樹木の成長や新規加入によるより高い森林の生産性が見られた。しかし、種多様性の低い森林では、長期気候変動下においてその生産量は減少した。また、どちらの森林でも全体として枯死による森林の減少が見られた。しかし、種多様性の高い森林における枯死による森林バイオマスの減少は、多様性の低い森林のそれよりも少なかった。その結果、種多様性の高い森林では、種多様性の低い森林に比べて、気候変動に伴うバイオマスの総増減量のマイナス変化が抑えられていた。さらに、種多様性の高い森林の生産性は二酸化炭素の濃度上昇により、さらに高められた。一方、乾燥化による森林の枯死量は、種多様性の高い森林よりも多様性の低い森林おけるほうが大きかった。
これらの結果から、樹木の種多様性は自然林の長期気候変動に対する耐性を高める可能性が示唆された。