| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-06  (Oral presentation)

相利共生の群集遺伝学:共生細菌群集は遺伝的類似則によって予測されるか?
Community genetics in mutualism: does genetic similarity rule predict bacterial symbiont community?

*鍵谷進乃介(北海道大学), 九町健一(鹿児島大学), 内海俊介(北海道大学)
*Shinnosuke KAGIYA(Hokkaido Univ.), Ken-ichi KUCHO(Kagoshima Univ.), Shunsuke UTSUMI(Hokkaido Univ.)

 近年、多くの研究によって、植物種内の遺伝的変異から生物群集構造への波及効果が報告されている。このような研究は、栄養相互作用に基づく群集形成に着目して行われてきた。しかし、ほとんどの陸上植物に普遍的にみられる、根圏微生物との共生関係を通した群集形成については見過ごされていた。
 栄養相互作用を通した植物の遺伝的変異から生物群集への波及効果は、相互作用を行う両種の多様化を促す逃避-放散共進化と同様のプロセスが想定されている。一方、共生相互作用では、共生微生物の遺伝的多様性が高い環境下で相利共生を維持するため、利益を搾取する共生細菌との関係を避けるメカニズムが働く。このメカニズムは多様化を抑制することが、理論研究によって予測されている。そのため、共生相互作用を通した遺伝子から群集形成への波及効果は、栄養相互作用で想定されていたシナリオとは異なると考えられる。
 そこで、ケヤマハンノキと窒素固定細菌フランキアの根粒共生系を対象に、次世代シーケンサーを用いて、ハンノキ個体内と周囲土壌中のフランキア群集について網羅的な探索を行った。その結果、ハンノキの遺伝的変異に関わらず、ほとんどのハンノキ個体から共通のフランキア組成がみられ、栄養相互作用とは異なる結果が示された。さらに、根粒中のフランキア群集を構成する遺伝子型は、周囲土壌から偶然によって形成された群集よりも少数だったことから、共生相手の選別が機能的に行われていることが示された。加えて、群集解析手法を応用した共生相手の選別度合の指標(選別度指標)を発案し、ハンノキの遺伝的変異との関連性を解析した。選別度指標は近縁なハンノキ集団で類似しており、土壌などの環境条件などの影響はみられなかった。以上より、共生細菌の群集形成において、選別が重要であることを明らかにしたとともに、その度合いには樹木の遺伝的変異が関連している可能性が示唆された。


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