| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-10 (Oral presentation)
草原は数多くの絶滅危惧種が生息し、緊急に保全が必要とされる環境の一つである。山梨県富士北麓は今も草原が残る日本でも数少ない場所の一つであるが、約60年にわたる管理放棄と近年のシカの増加によって草原性生物が減少しつつある。そこで、草刈とシカ柵の設置によって豊かな草原がどの程度再生するかを評価するために、草原性植物やチョウ類を指標とした調査を開始した。しかし、本年度は調査一年目として、草刈とシカ柵設置を実施する前の状況を調査したので、今回は草丈や低木の被度といった放棄草原内の元々の異質性が植物やチョウの多様性に及ぼす影響を評価した。
富士北麓の放棄草原の一つに、25 m四方の方形区を二つ設置し、片方をシカ柵設置区、もう一方を非設置区とした。また、この方形区を半分に分割し(この単位をプロットとする)、半分は草刈区、もう半分は非草刈区とした。このセットを草原内に4つ設置した。植物はプロット内に1 m四方のコドラートを12個設置し、年2回調査した(6月は開花した植物のみ、8月末~9月上旬は全植物)。また、同時に、草丈と低木の被度を記録した。チョウはプロット単位で調査を行い、年3回調査した。植物については、年間を通じたコドラート単位の植物種数を応答変数、6月と8月末の草丈と低木被度を説明変数、セットをランダム効果とする一般化線形モデルで解析した。チョウについては、年間を通じたプロット単位のチョウの種数・個体数を応答変数、吸蜜源の量、食草種数、6月と8月末の草丈の平均とばらつき(SD)を応答変数、セットをランダム効果とした。
解析の結果、植物種数とチョウ個体数は8月末の草丈と負の相関があったが、チョウ種数はどの変数とも相関がなかった。また、6月の草丈や低木被度は植物種数に影響していなかった。以上の結果から、放棄草原内には異質性があり、草丈の低い場所に多くの種が残されていることが分かった。