| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-03  (Oral presentation)

土壌微生物と植物の窒素獲得競争:安定同位体比からの再検討 【B】
Competition for nitrogen between plants and soil microbes: From isotopic perspectives 【B】

*木庭啓介(京大生態研センター)
*Keisuke KOBA(CER, Kyoto Univ.)

土壌微生物と植物との間には窒素獲得競争があると考えられており、その重要性のため、これまで大変多くの研究が行われてきた。たとえば15Nトレーサー添加実験から、短期的(数日間)には与えた窒素は微生物バイオマスに取り込まれるが、長期的(数ヶ月間)には、微生物の死滅そして再無機化などを通じて、植物にも窒素が行き渡るというタイムスケールの違いで競争が緩和されているという議論、そして植物が土壌微生物による窒素無機化を待たずに土壌中の有機物の一部を直接吸収することで競争を緩和している、という議論がなされてきた。
しかし、このような研究のほとんどが窒素を何らかの形で系に添加してその反応を見るというデザインによっている。そもそも攪乱に非常に敏感、かつ植物も微生物も窒素を必要としている系に窒素を添加して、果たして現場の情報が得られるのかという疑問は払拭されないままこれまでの研究は進んできた。そこで本研究では、半定量的な議論しか可能にしないという制限があるものの、現場環境での窒素循環情報を与えうる窒素安定同位体自然存在比の情報を用いて、国内数カ所のヒノキ林を対象に、土壌微生物と植物が同じ窒素源を利用しているのか、それとも違う窒素源を利用しているのか、土壌微生物と植物との現場窒素獲得競争について検討を行った。
全ての森林で、土壌微生物の窒素同位体比は植物のそれと明らかに異なる値をとっており、その同位体比パターンから土壌微生物は土壌有機物(有機態窒素)を利用し、窒素を放出(無機化)していること、一方の植物は土壌中の無機態窒素を利用していることが示唆された。このことは土壌微生物と植物の間でこれまで考えられていたような無機態窒素に関する窒素獲得競争が生じていないことを示しており、陸上窒素循環を再度整理し直す必要性を強く示唆するものである。


日本生態学会