| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-05  (Oral presentation)

千曲川中流域におけるバクテリア生産量の時空間変動
Temporal and spatial variations of bacterial production in the middle reach of Chikuma River

*土屋健司(国立環境研究所), 平林公男(信州大学), 高津文人(国立環境研究所)
*Kenji TSUCHIYA(NIES), Kimio HIRABAYASHI(Shinshu University), Ayato KOHZU(NIES)

河川中流域における主要なバクテリア生産(BP)の場として,河川水と河床の石表面に形成されるバイオフィルムが挙げられる.既存の放射性同位体を用いるBP測定法では,手法的な制約によりバイオフィルムBPの測定対象・サイズが限定され,千曲川中流域に多く存在する直径10 cm程度の石に適用することは難しい.そこで本研究では,安定同位体で標識した15N-デオキシアデノシンを用いて,千曲川中流域における河川水およびバイオフィルムBPの時空間変動を明らかにすることを目的とした.時間変動として季節スケール(月単位)に,空間変動として流程(kmスケール),瀬・淵(mスケール)に着目した.調査は2019年2月から11月に上田盆地の末端部に位置する常田地区の瀬・淵の2地点と,犀川合流点より上流に位置する岩野地区の合計3地点で実施し,水温,栄養塩,クロロフィルa(Chl a),溶存態有機炭素(DOC),バクテリア現存量(BA),BPを測定した.空間変動に関しては,河川水・バイオフィルムBPともに,常田地区における瀬・淵間,常田・岩野地区での流程間での明確な違いは見られなかったことから,千曲川中流域ではバクテリア生産は普遍的に行われていることが示唆された.河川水BPは5月に,バイオフィルムBPは9月に最大値を示し,異なる季節変動パターンが見られたため,両BPで異なる制御要因があると考えられた.河川水BPは水温とは有意な関係を示さず,DOCやChl aなどと有意な正の相関を示したことから,有機炭素などの資源に強く律速を受けていたことが示唆された.一方,バイオフィルムBPは水温と有意な正の相関を示すが,DOCなどとは関係を示さなかった.更に,バイオフィルム中のBAとは正の相関がみられなかったことから,バイオフィルムBPは水温によるボトムアップ制御に加えて,捕食・剥離などのトップダウン制御が強く影響していたことが示唆された.


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