| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-06  (Oral presentation)

コケと石灰岩境界部の硫黄を含む有機物の分光分析および細菌叢解析
Sulfur-containing organic boundaries between mosses and limestones observed by combined microscopic analytical methods

*山北絵理(大阪大学), 中嶋悟(大阪大学), 守屋繁春(理化学研究所)
*Eri YAMAKITA(Osaka University), Satoru NAKASHIMA(Osaka University), Shigeharu MORIYA(RIKEN Center)

 コケは土壌の発達していない岩盤上に生息することができる植物である。これは、コケが葉や茎など体全体から水分や養分を吸収でき、土壌に根を張る必要がないためであると考えられる。しかし、すべてのコケが岩石上に生息するわけではなく、種によって好む岩石が異なることが知られている。例えば、田中(2012)では石灰岩地と結びつきの強いコケが報告されている。また、Lenton et al. (2012)では、コケが岩石上に生育することによって、岩石からの元素の溶出が促進されたことが報告されている。これらのことから、コケと岩石間には何らかの相互作用が存在すると考えられる。
 本実験では、コケと石灰岩の境界部分を複数の分光手法を用いて解析した。コケが直接生えている石灰岩を採取し、コケがついたままの状態で石灰岩を切断して測定試料として用いた。まず、コケと石灰岩の境界部分をSEM-EDSを用いて元素分析したところ、硫黄が多い部分が存在することが分かった。この部分では、炭素や窒素、リン、カリウムも多い傾向がみられた。さらに、顕微赤外分光測定を行った結果、この硫黄が多い部分は多糖類であり、その一部はSphingomonas elodeaが分泌するジェランガムである可能性が示された。またXPS分析の結果、O-SO3-が検出されたため、硫酸化多糖類の存在が示唆された。多糖類や硫酸化多糖類は粘性物質であり、コケが岩石上に体を固定するために役立っていると考えられる。また、これらの多糖類によって、窒素やリンなどの栄養元素が岩石上に保持されたと考えられる。
 これまで、コケが硫酸化多糖を分泌するという報告はなく、今回の試料でも5つの試料のうち3つでは硫黄の多い部分が見つかったが、2つではみつからなかった。今後は、他の石灰岩地に生えるコケや他の種類のコケでも同様の硫黄が多い多糖類が存在するのかを検証し、硫黄の起源も調べていきたい。


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