| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-08  (Oral presentation)

老齢林のギャップ区と林冠区におけるササ群落のGPP比較
Difference in GPP of understory dwarf bamboo between Gap area and Canopy-closed area in an old-growth forest

*蔡一涵(筑波大学), 谷岡庸介(筑波大学), 井田秀行(信州大学), 廣田充(筑波大学)
*Yihan CAI(Tsukuba Univ.), yosuke TANIOKA(Tsukuba Univ.), Hideyuki IDA(Shinshu Univ.), Mitsuru HIROTA(Tsukuba Univ.)

森林生態系は複雑な構造を持っており、その複雑さを形成している要因の一つにギャップ構造があげられる(藤森, 2006)。攪乱によって形成されるギャップは、林冠閉鎖区と下層植生やその環境が大きく異なる。このことから、森林の下層植生の生産量は場所によって大きく異なると考えられる。しかし、実際に下層植生の生産量がどれだけ異なるのかについての報告例は少ない。本研究ではギャップ構造が顕著な老齢林のギャップ区と林冠閉鎖区におけるササ群落GPPを比較し、その違いを明らかにすることを目的とした。また、様々な環境要因やササの特性を測定することで、両区の差異にこれらの要因がどう関わるのかについて検討した。
調査は長野県木島平村カヤノ平ブナ老齢林(樹齢約300〜500年)のモニタリング1000サイトで行った。カヤノ平ブナ老齢林の林冠はブナのような落葉広葉樹が、下層はササが優占しており、本研究ではササ群落を対象とした。林冠の葉面積指数を指標として1haサイト全域を林冠閉鎖区とギャップ区に分けて、両区の下層植生の群落レベルの生産力(総光合成速度:GPP)を巨大チャンバー(0.5 m x 0.5 m x 1.7 m)を用いて2019年5月から10月まで計測した。GPP計測と並行して、両区の温湿度、土壌水分、土壌温度、LAI、光強度を連続計測した。さらに、ササを対象として地上部バイオマスとその季節変化および葉内窒素含有量を測定した。
測定した環境要因はどれも2区間で差異があった。顕著に差が見られた日積算の光強度は、ギャップ区で非常に大きく林冠閉鎖区の約3~10倍にも達していた。ササ群落の単位面積あたりのGPPは、林冠閉鎖区とギャップ区でそれぞれ0.17と0.70 mol C m-2 yr-1になり、ギャップ区の方が大きかった。ササ群落の葉バイオマスあたりのGPPもギャップ区の方が大きかった。このことから、ササ群落の光合成能力もギャップ区の方が林冠閉鎖区よりも大きいことが明らかとなった。


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