| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-06  (Oral presentation)

農作物被害を軽減するためのヒヨドリ警報の開発
Development of bulbul forecast to reduce damages on agriculture

*持田浩治(慶応義塾大学), 西川真理(東京大学), 揚妻-柳原芳美(WDサイエンス工房), 揚妻直樹(北海道大学)
*Koji MOCHIDA(Keio University), Mari NISHIKAWA(The University of Tokyo), Yoshimi AGETSUMA-YANAGIHARA(WD Science Planning), Naoki AGETSUMA(Hokkaido University)

野生生物に関わる問題は、開発等による生息環境の減少から、農林水産業への被害など多岐にわたる。世界自然遺産地域に指定された屋久島では、ユネスコの理念にしたがい、希少生物の生息環境を保護するのと同時に、野生生物と“そこで生活するヒト”との軋轢を軽減することで、貴重な生態系を保全することを緊急の課題としている。本研究対象のヒヨドリは、屋久島の森林生態系における主要な種子散布者であると同時に、柑橘類に対する農害鳥獣としての側面をもつ。つまり、安易な駆除は、ヒヨドリだけでなく屋久島の森林生態系に多大な影響を与えると考えられる。一方、駆除を行わない、果実袋を利用した対策は、ヒヨドリによる柑橘類への被害削減に強い効果を発揮するが、その取り付け作業は、労働面・金銭面ともに農家にとって大きな負担となる。
 そこで本研究は、ヒヨドリによる農業被害が発生する1月より前に、市街地周辺の果樹園のヒヨドリ出現頻度や、果実袋による被害対策の必要性を予測するシステムを開発することを目的に、ヒヨドリの屋久島内での生息地利用や、農家のヒヨドリ対策効果を経年比較した。その結果、1月の果樹園のヒヨドリ出現頻度は、同時期の二次林での出現頻度の影響を受けることが明らかになった。さらに後者は、前月のヒヨドリの二次林出現頻度と、二次林の液果の豊凶の程度から推定できることが示唆された。また、果樹園ごとにヒヨドリ対策の有無とヒヨドリ出現頻度を経年比較することで、ヒヨドリ対策の労働対効果を明らかにした。本研究結果は、農家がヒヨドリ対策を準備するために必要な12月の段階で、1月の果樹園へのヒヨドリ出現頻度を予測(注意喚起)できる可能性を示唆した。


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