| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-09 (Oral presentation)
ニホンジカ(以後,シカ)の個体数増加や分布拡大が,マダニ媒介性感染症のリスクを増加させることが疑われている。シカはマダニ類の宿主としてマダニ密度を高めることが知られているが,広域的なシカの増加や分布拡大がマダニ類における病原体の保有率に与える影響は分かっていない。そこで,本研究は,シカの増加と分布拡大がマダニ類におけるリケッチア属の保有率へ及ぼす影響を明らかにすることを試みた。リッケチア属の細菌はマダニが媒介し,そのうち数種はヒトに病原性を示すことが知られている。調査は日本紅斑熱の流行地である千葉県房総半島南部から非流行地域である北部にかけて,2019年5月と7月に実施した。千葉県内の,シカ密度が異なる約30箇所の地点で旗ずり法によりマダニ類を採取した。採取した全てのマダニ類の若虫と成虫(計395個体)からDNAを抽出し,リケッチア属に特異的なプライマーを使用したNested-PCRによりリケッチア属の遺伝子断片を検索した。その結果,マダニ類の採取時期にかかわらず,シカ密度が高い地域で採取されたフタトゲチマダニ若虫および成虫のうちリケッチア属の遺伝子断片が検出された個体の割合が約60%(115/184個体)と高い傾向がみられた。このことから,シカが増加すると何らかのメカニズムによってフタトゲチマダニにおけるリケッチア属の保有率が高まる可能性が示唆された。一方,シカ密度が低い地域の一部で採取されたキチマダニとタカサゴキララマダニからもリケッチア属の遺伝子断片が確認された。このことから,キチマダニとタカサゴキララマダニにおけるリケッチア属の保有率は,シカ以外の宿主動物によって規定される可能性が示唆された。