| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-03 (Oral presentation)
極端な気象現象が社会へ与える影響の評価は、国際社会における早急の課題である。これまで、極端気象による経済的損失の評価が進められている一方、経済格差のような社会構造変化に関する影響評価は乏しい。その理由として、多くの影響評価が国内総生産(GDP)のような集計的な指標を利用するのに対し、格差を評価するためには世帯レベルのデータが必要となる点が挙げられる。経済格差の解消は、持続的開発目標(SDGs)の一つであり、その評価が求められている。そこで、本研究では、大規模な雪害(家畜大量死)が発生するモンゴル放牧草原を対象に、遊牧民世帯の所有家畜頭数パネルデータを用いて、極端な気象現象がおよぼす世帯間の経済格差拡大について検証する。
対象地は、2009-2010年の雪害において家畜の死亡率が高かった、ドントゴビ県とする。モンゴルでは家畜頭数の全数調査を毎年実施しており、そのデータを利用した。対象となる家畜タイプは、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ラクダで、現地で用いられるヒツジ換算式を用いて頭数比較を行った。2004-2014年の約600世帯のデータを用いた。各世帯の合計頭数を用いて、各年のGini係数を計算し雪害前後の経済格差を評価した。Gini係数は雪害の後で大きく増加し、格差拡大が確認された。さらに、雪害後4年経過し、全体の家畜頭数は雪害前の値を上回り回復しているにも関わらず、Gini係数は雪害前の値まで下がらなかった。つまり、全体の家畜頭数が回復しても、経済格差は拡大した状態が続いていた。また、所有家畜頭数が少ない世帯ほど、雪害後の頭数回復が見られないことがわかった。このことから、貧困層の遊牧民の家畜頭数の減少が格差拡大に起因していることが考えられた。本研究により、極端な気象現象は世帯間の格差拡大を引き起こすことが実証的に示された。さらに、集計データだけでなく、世帯別データを用いて格差のような社会構造の変化を評価することの重要性を示した。