| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-10  (Oral presentation)

霞ヶ浦流域の生態系サービス・生物多様性間の関係:シナジー促進とトレードオフ緩和
Managing synergies and trade-offs among multiple ecosystem services and biodiversity in the watershed of Lake Kasumigaura

*松﨑慎一郎(国環研), 高津文人(国環研), 角谷拓(国環研), 大澤剛士(首都大・都市環境学部), 渡邉未来(国環研), 今藤夏子(国環研), 深谷肇一(国環研), 山口晴代(国環研), 小松一弘(国環研), 安藤温子(国環研), 霜鳥孝一(国環研), 中川惠(国環研), 吉岡明良(国環研), 佐々井崇博(東北大・理学), 三枝信子(国環研), 松下文経(筑波大・生命環境), 高村典子(国環研)
*Shin-ichiro MATSUZAKI(NIES), Ayato KOHZU(NIES), Taku KADOYA(NIES), Takeshi OSAWA(Tokyo Metropolitan Univ.), Mirai WATANABE(NIES), Natsuko KONDO(NIES), Keiichi FUKAYA(NIES), Haruyo YAMAGUCHI(NIES), Kazuhiro KOMATSU(NIES), Haruko ANDO(NIES), Koichi SHIMOTORI(NIES), Megumi NAKAGAWA(NIES), Akira YOSHIOKA(NIES), Takahiro SASAI(Tohoku Univ.), Nobuko SAIGUSA(NIES), Bunkei MATSUSHITA(Univ. of Tsukuba), Noriko TAKAMURA(NIES)

霞ヶ浦の全流域を50小流域に分け、少流域ごとに10の生態系サービスと淡水魚類の多様性の計11項目について評価を行い、空間的に生じる生態系サービス・生物多様性間のシナジーとトレードオフ関係を分析した。魚類の多様性については、環境DNAを用いて在来淡水魚類の種多様性を評価した。
 因子分析を行った結果、第1因子では、気候調整機能、洪水調整機能、炭素蓄積量、純一次生産量、里山指標間のシナジーが抽出された。第1因子と森林面積率の間に正の相関が見られたことから、5つのサービスのシナジーを維持・促進するためには森林が重要な役割を果たすことが明らかとなった。
 また、第2因子では、農業生産の増加に対して、水質と在来魚類の多様性が低下するトレードオフが抽出された。農業生産が水質に負の影響を及ぼしていることが明らかになったが、その関係を詳細にみると、農業生産が高いにも関わらず、水質が良い(ここでは硝酸濃度が低い)小流域が見つかった。このような小流域では、ため池などの湿地面積率が高かったことから、湿地の保全や再生が、農業生産と水質のトレードオフを緩和する可能性が示唆された。また、魚類の多様性と水質とは有意な関係性は認められなった。農地がどのようなプロセスを通じて魚類の多様性に影響を及ぼしているか詳細な研究が必要である。
 本研究から、シナジー促進とトレードオフ緩和の観点を考慮した流域管理により、多様な生態系サービスの持続的な活用につながることが示唆された。また、本流域で気候変動に対する適応策を検討する上で、森林と湿地の維持は重要であると考えられる。


日本生態学会