| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-11  (Oral presentation)

琵琶湖南湖湖底の対照的な生態系、基礎生産はどこへ流れるのか
Where the basic production flows?: Contrasting ecosystems on the bottom of South Lake Biwa

*高村健二, 今藤夏子(国立環境研)
*Kenzi TAKAMURA, Natsuko I. KONDO(NIES)

 富栄養化した湖ではしばしば特定の生物群が大発生する。これらの大発生は大量の有機物生産をもたらすため、他の生物群にとっては摂食等を通じた資源利用の絶好の好機である。しかしながら、ラン藻の大量増殖に見られるように当該生物が毒素等の捕食回避特性を発達させている場合もあり、生産有機物が生態系に広く供給されるとは限らず、利用が進まずに滞留することもある。このような事象は人による湖沼利用を妨げることにもなる。例えば、アオコや水草の腐敗・異臭発生や羽化昆虫の市街地蝟集である。
 琵琶湖南湖では沈水植物あるいは浮遊ラン藻の大発生が認められてきたが、近年は底生ラン藻分布の拡大も注目されつつある。すなわち、湖底には水草帯(沈水植物優占)と底生ラン藻帯(Microseira wollei:サヤユレモ優占)が広がっている。底生動物(ベントス)調査の結果、水草帯にはユスリカが、底生ラン藻帯にはミズムシ・ヨコエビが特異的に分布することがわかっている。
 水草および底生ラン藻の有機物生産がそこにすむベントスに摂食されているかどうかを調べるため、炭素および窒素安定同位体比をこれらの生物群について分析した。生物の採集は2018年および2019年の初夏(5月から7月)に行った。採集生物は冷蔵保存後、濾過・切片化により適量を採取し凍結乾燥後、必要に応じた脱炭酸・脱脂処理を経て分析に供した。
 分析の結果、炭素安定同位体比はミズムシ・ヨコエビよりも底生ラン藻で明らかに高かった。すなわち、底生ラン藻の生産はそこに生息するベントスに利用されていないと推測された。一方、ユスリカでは水草の変異の範囲内にあった。また、オオクチバス・ブルーギル・ヌマチチブ等の魚類は以上のベントスよりも全体としてやや高い範囲に留まり、水草とは食物連鎖を通じてつながっているが、底生ラン藻とはつながっていない可能性が高かった。


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