| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-14 (Oral presentation)
東日本大震災で壊滅的な被害をもたらした津波は、多くの瓦礫を沖合へと運んだとされる。海底に沈んだ瓦礫は、人工漁礁としての働きをみせることもあるが、底曳き網をはじめとする漁具を破損し、漁業の復興を妨げる要因になりかねないことも報告されている。本研究では津波により海底へと流出した瓦礫がどこに堆積しやすいのかを推定するモデルを構築し、効率的な瓦礫の掃海作業に必要となる基盤情報の展開を目指した。
瓦礫の分布はソナー調査によるデータを用い、1㎞グリッド単位の容積に換算して使用した。沿岸からの距離、海底地形の複雑さ、津波の遡上高、浸水域の土地利用(都市域、河川域)、船舶保有数、流速場の指標(運動エネルギー)を変数としてモデルに投入した。モデルではデータの空間構造をMoran’s eigenvectorを用いて記述することで空間自己相関を考慮した。また、各説明変数の係数は場所ごとに異なることを仮定してベイズ推定を行った。
モデルの推定結果から、沿岸からの距離に加えて、海底地形の複雑さ、流速、津波の遡上高、河川との近接性および沿岸地域の船舶保有数が瓦礫の堆積しやすさに作用していることが明らかとなった。構築したモデルを適用して、東北沖での瓦礫の堆積しやすさを推定した結果からは、宮城県沖で高く、岩手県沖は低かった。これは浸水エリアが宮城県沖で広かったことに加えて、とりわけ仙台湾内では沖合への流れが生じにくく、瓦礫が湾内に滞留しやすかったのに対し、岩手県宮古沖では流速が大きいために堆積しづらかったことが影響していると考えられた。
こうした陸由来の要因と海洋環境の要因を組み合わせた瓦礫堆積モデルの構築は、国際的にも新規性が高い。東北沖での活用はもちろんのこと、将来発生しうる災害においても適用できる可能性があり、東日本大震災での知見の有用性を示し、広く活かされることが期待されるものである。