| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-06  (Oral presentation)

生物多様性保全への利用をめざした絶滅危惧種標本の情報統合
Integrated information of museum specimens for conservation of highly endangered species

*杉田典正, 海老原淳, 細谷剛, 神保宇嗣, 中江雅典, 遊川知久(国立科学博物館)
*Norimasa SUGITA, Atsuhi EBIHARA, Tsuyoshi HOSOYA, Utsugi JINBO, Masanori NAKAE, Tomohisa YUKAWA(Nat. Sci. Mus.)

環境省レッドリストには国内の絶滅・野生絶滅種125種および絶滅危惧種I類2117種が掲載されている。絶滅危惧種は絶滅リスクが高く、保全管理計画を要する。しかし絶滅危惧種の多くは、生息個体数の少なさなどの理由からデータ収集が困難であり、一部の絶滅危惧種を除いて保全管理計画の策定に必要な情報が不足している。一方、博物館には絶滅種や絶滅危惧種の標本も保管されており、保全に関する様々な情報が得られる。技術の発達により従来では得られなかった情報を博物館標本から取得できるようになり、博物館標本利用の最も大きな利点である過去の分布情報や遺伝情報を復元できるようになってきた。博物館標本の保全への活用は利点が多いものの、標本の所在や標本数といった情報は、各博物館の標本目録や台帳に散在しており、標本の活用を難しくしている。標本情報はデータベース等で公開されつつあるが、すべての標本の情報が電子化・共有されているわけではなく、依然としてアクセスが困難な標本も多い。社会的に重要度の高い絶滅危惧種生物においても、標本の所在情報等の把握・集約は進んでいなかった。本研究では、環境省レッドリスト掲載の絶滅と野生絶滅種、絶滅危惧種I類を対象に標本所在情報を集約した。国内に少なくとも絶滅危惧種の約85%が標本として1点以上保管されていた。海外の博物館も含めると約95%の種において標本の所在が明らかになった。絶滅危惧種標本の情報統合により標本へのアクセスが改善された。保全研究の推進、絶滅危惧種の生物学的特性の評価、生息地・遺伝的多様性変遷過程の把握による絶滅リスクの推定等への活用を提案する。


日本生態学会