| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-02 (Oral presentation)
近年,水田を利用するアカネ属(Sympetrum)の個体数が日本各地で激減したと報告されている.その主要因として疑われているのが,水稲栽培で使用される育苗箱施用殺虫剤(以下,箱剤)である.ジアミド系のクロラントラニリプロール(以下,クロラン)は,2010年以降に普及し,現在主要な箱剤の一つとなっている.本剤は実験室内の毒性試験等では,アカネ属の幼虫に対する毒性は比較的低いと報告されているが,野外での影響はほとんどわかっていない.そこで本研究では,クロランが水田で繁殖するアカネ属の羽化数におよぼす影響を明らかにするために野外実験を行なった.
石川県羽咋市の水田地帯において,隣接する10筆の水田を実験区として用いた.そのうち,6筆に箱剤としてクロランを散布し,残り4筆は対照区として箱剤を使用しなかった.その他の管理方法は周辺の慣行的な栽培方法に従った.これらの水田において,2019年6月から7月まで,10日に1回程度の頻度でアカネ属の羽化殻の採集調査を実施した.また,調査時に各水田において水深を測定し,湛水状態の指標として期間中(中干し前)の水深の最小値を解析に用いた.
野外実験の結果,アキアカネ(S. frequens)239個体,ノシメトンボ(S. infuscatum)233個体の羽化殻が採集された.クロラン散布の有無と水深を説明変数,各水田の総羽化殻数を応答変数とし,ゼロ過剰の負の二項分布を仮定した一般化線形モデルを用いて種ごとに解析した結果,クロラン散布はノシメトンボの羽化殻数と有意な負の関連を示したが,アキアカネの羽化殻数とは関連がなかった.このことから,クロランはノシメトンボの羽化数を減少させた可能性が示唆された.一方,両種ともに水深と羽化殻数との間に有意な正の関連があったため,水深が幼虫期の生存率等に寄与していることも考えられた.クロラン散布と羽化数減少との因果関係を解明するためには,産卵期の環境条件等も含めた調査がさらに必要である.