| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-03  (Oral presentation)

水田からため池へ 深刻化する絶滅危惧水生昆虫へのネオニコチノイド系農薬の影響
From rice fields to irrigation ponds: the increasing serious effects of neonicotinoid pesticides on endangered aquatic insects

*苅部治紀(神奈川県立博物館), 亀田豊(千葉工業大学)
*Haruki KARUBE(Kanagawa Prefectural Museum), YUTAKA KAMEDA(Chiba Institute of Technology)

ネオニコチノイド系農薬は、水田のアキアカネなどのトンボ類の減少要因として最初に注目され、その後の実験水田での実証から、トンボ類など水生生物への環境影響が明らかになったものである。影響はトンボだけではなく、他の多くの水生昆虫、ミツバチや食品、人の神経系への影響など多方面に及ぶことが明らかになりつつある。演者らは、野外の絶滅危惧水生昆虫の生息池で、本農薬が普及してから地域絶滅や個体数の激減が観察されていることから、本農薬の影響を疑い、調査を実施した。今回は、フィプロニルを含む7薬剤を対象に解析を行った。
その結果、マダラナニワトンボ、ベッコウトンボ、マルコガタノゲンゴロウなどの絶滅危惧種のかつての生息地や激減した生息地などから、広範の汚染が確認された。地域によっては高濃度の汚染が確認され、このような箇所では本薬剤が絶滅や減少の主要因と考えられる。一方、絶滅危惧種が現存する産地では、農薬非検出の場所が多かったが、今回対象にした7薬剤が完全に非検出な地域はほぼ存在しなかった。農薬汚染は水田だけではなく、ため池などの水域にも広く拡大しており、また、近接地に農地の存在しない池でも高濃度汚染が確認された事例からは地下水汚染の進行も想定される。さらに自然水域での検出は、北海道から沖縄まで広域に及んだ。検出される農薬の種類や濃度は地域によって差異が大きかった。これまで、絶滅危惧水生昆虫の致死試験は実施された事例を聞かず、環境基準値より低濃度であっても、一般に水質に敏感とされる絶滅危惧種の生存に影響が大きい薬剤が存在する可能性はあり、今後の調査は必須と考えられる。また、未だに有機リン系農薬の使用も多い実態から、今回ネオニコチノイド系農薬が検出されなかった場所でも農薬汚染がないことを意味しないことには留意が必要と考えられ、生物の急減が確認された地域では広範な薬剤を対象にした調査が望まれる。


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