| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-09 (Oral presentation)
東京都府中市の浅間山は,固有の分類群であるムサシノキスゲが分布するなど,地域的な生物多様性ホットスポットである.しかし,農用林としての管理が行われなくなったことで,林床でのアズマネザサの繁茂が進み,コナラ二次林の種多様性の低下が生じている.そのため,2016年から2017年の冬にかけて,林床植生の回復を主な目的として,約50年生の林分が伐採された.この伐採地のうち皆伐地と択伐地にそれぞれ固定調査区を設置し,伐採当年から2019年までの3年間,春と秋に林床植生の追跡調査を行った.
調査区(12m☓12m)を16区画に区分してその半数でリター除去処理を行った.また,調査区すべてで秋の調査終了後に草刈りを行った.皆伐区では,1年目からヒメコウゾ,アカメガシワなどの先駆低木の実生が多数発生したほか,アキノエノコログサ,コセンダングサなどの雑草的な一年生草本も多く出現した.一方で,周辺の林床管理されたコナラ林に生育する種の出現は,ヒメカンスゲなど少数に限られた.アズマネザサと先駆低木の刈り取りを毎年行っても,翌年の夏には再びこれらが繁茂して薮状になった.また,リター除去処理は種組成にほとんど影響を与えなかった.択伐区でも,伐採後に木本の実生が増加する傾向があったが,コナラ二次林に特徴的な植物の加入はわずかであった.
以上から,20年以上にわたって管理放棄され,アズマネザサが繁茂したコナラ二次林では,樹木の伐採やアズマネザサの刈り取りを行ったとしても,林床植生の種組成が回復する可能性は低いことがわかった.リター除去にともなう地表攪乱が生じても,コナラ二次林に特徴的な草本植物は出現しなかったことから,すでに埋土種子が枯渇していたことが推測された.したがって,長期間管理が停止されていたコナラ二次林で林床の種組成を復元するためには,アズマネザサや先駆低木の繁茂抑制と並行して,隣接地から散布体を供給する方法を検討する必要がある.