| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-12 (Oral presentation)
生物の保全策は、その種の生息と景観の関係を用いて講じられることが多い。しかし近年、生息と景観の関係に地域差が見られる事例が多く報告されている。その場合、同じ保全策を広域に適用しても十分な効果が得られない。この問題は地域ごとに保全策を講じることで解決できるが、そのためには地域差が生じる理由を解明し、地域を分ける適切な基準を設ける必要がある。
本研究では里山の猛禽サシバを対象とする。本種の生息地選択はこれまで関東で研究され、林縁の樹木にとまって主にカエルを探して捕食するため、水田と森が隣接する景観に生息することが示されてきた。しかし演者らの研究により、九州の福岡では主に直翅目昆虫を捕食し、草地が生息に重要であることが分かった。なぜこのような地域差が生じるのか?私たちは、農事暦の違いが関係していると仮説を立てた。田植えが早い関東と異なり、田植えが遅い福岡では育雛期にはまだ水田に水がなくてカエルの密度が低いため、本種は草地が多い景観に生息して直翅目を捕食すると予想している。
そこで私たちは、九州の田植え時期が早い(4月)地域と遅い(6月)地域で、2019年繁殖期にサシバと餌になる水田・草地の生物の分布を調べて比較した。その結果、田植えが早い地域では水田と森が隣接する景観で、遅い地域では草地と森が隣接する景観で、サシバの生息確率が高くなった。水田・草地の生物相の調査結果を踏まえ、田植えが早い地域ではヌマガエル、遅い地域ではニシキリギリスを主に捕食していると考えられた。また、ヌマガエルの密度は水田の水の有無と正の相関があったため、育雛期には田植えが遅い地域より早い地域で多いと考えられた。これらの結果から、田植え時期の違いが餌資源の利用可能量に地域差をもたらすことで、サシバの生息地選択に地域差が生じることが示された。本研究は、田植え時期を基準に地域を分けてサシバの保全策を講じる必要性を示唆した。