| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-14 (Oral presentation)
本研究では、農林省水産局の文献「河川漁業」から1927-1931年のサクラマスOncorhynchus masou masou(降海型)の分布を推定した。サクラマスを含むサケ科魚類の分布を検討するうえで、河川水温は不可欠な環境要因である。しかし、全国を網羅した水温測定は当時行われておらず、解析に使用できるデータが存在しない。そこで、緯度および気温を指標として分布水系の位置について検討した。また、得られた情報をもとに、将来、気候変動で気温が上昇した場合の分布水系の減少について予測を試みた。
本研究では、北海道・本州・九州の日本海および東シナ海側の75水系を対象とした。まず「河川漁業」から分布情報を抽出し、各水系の分布の有無(1・0)を応答変数および河口の緯度を説明変数とする一般化線形モデルを作成した。また、75水系周辺にある19観測地点における1927-1931年の5箇年平均気温(以下、気温と記述)の情報を気象庁ウェブサイトから収集し、気温を応答変数および緯度を説明変数とする一般化線形モデルを作成した。降海型の南限は、前者のモデルで分布確率が0.5となる緯度と定義した。次に、算出された緯度を後者のモデルに代入し、南限における気温を推定した。また、その気温を閾値とし、気温が1-3度上昇した場合の分布水系の残存数を算出した。
解析の結果、降海型の南限は北緯34度37分と算出され、それより北側の59水系が分布域と判断された。また、南限における気温は14.6度と推定された。これを閾値とすると、降海型が分布するのは、1927-1931年の気温から1度上昇時に43水系、2度上昇時に23水系、3度上昇時に16水系に減少することが予測された。
最近5箇年(2015-2019年)の例では、19観測地点における気温は1927-1931年より0.9-2.6度(平均1.7度)高い。仮にそうした気温が常態化した場合、降海型が分布するのは37水系に減少すると予測される。今後の気温の推移によっては、降海型の分布への負の影響が避けられないことに留意する必要があろう。