| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-02 (Oral presentation)
地球温暖化が現在急激に進んでおり、動植物への影響が懸念されている。特に、森林を構成する樹木への影響に注目が集まっている。樹木が温暖化から逃れる最も簡単で有力な手段は、種子散布によって気温の低い高標高の場所へ移動することである。これまで我々は種子の酸素同位体比が種子の生産される標高と負の相関を示すことを利用して、哺乳類による液果樹木の種子散布を対象に評価してきた。これらの研究から、夏に結実するサクラなどではクマのような果実食動物に高標高へ種子散布されること、一方で秋に結実するサルナシなどでは低標高に散布されており温暖化に対して適応的でないことなどがわかった。しかしながら、未だ標高方向の種子散布を評価した研究はごく限られており、種子散布を行う動物や対象樹木が異なれば、散布パターンは変化するかもしれない。そこで、堅果を生産し主にホシガラスによって種子散布されるハイマツを対象に標高方向の種子散布について研究を行った。
岩手山 (岩手県) ・秋田駒ケ岳 (秋田県・岩手県) 周辺において、2019年に、登山ルート上を踏査し、当年生実生から種皮を採取した。また、異なる標高で前年度の初秋に結実したハイマツ果実から種皮を採取した。これらのサンプルの酸素安定同位体比を測定し、標高との相関関係から種子散布距離を計算した。
結果はまだ暫定的なものであるが、低標高への種子散布が卓越していた (n = 114)。今回見られた種子散布パターンは秋に結実する液果樹木の傾向と同様であり、温暖化から逃避する上では非適応的であると考えられる。堅果樹木は一般に秋に結実するが、ブナやナラ類など他の堅果樹木でも同様なパターンが見られるか今後検証していく必要がある。