| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-08  (Oral presentation)

花序レベルや株レベルでの雌雄異熟の同調はトリカブトの雌繁殖成功にどう影響するか?
How does the extent of synchronous dichogamy at ramet and/or genet level affect female reproductive success of Aconitum?

*湊絵理那, 井田崇(奈良女子大学)
*Erina MINATO, Takashi Y. IDA(Nara Women's Univ.)

同調性雌雄異熟とは、開花期間中のある時点において花序や個体内の花の性が雄または雌のいずれかのみを示す開花様式である。その機能的意義として、隣花受粉の回避が挙げられる。ゆえに、同調性雌雄異熟の効果は、送粉者の採餌行動に依存すると予想される。例えば、花間の花粉輸送の予測ができない散形花序を持つ種で効果的である。一方、大型のハチに送粉を依存する総状花序の多くでは、送粉者は、花序内を下から上へと一方向に移動するため、花の性配置により、隣花受粉が生じない花粉輸送を実現できるため同調性雌雄異熟は必要ない。マルハナバチ媒介のクローン植物カワチブシ (トリカブト属)では、ラメットに単一の総状花序をもち、雄性先熟の花が求基的に開花する。そのため、通常の総状花序で見られる隣花受粉回避のメカニズムは作用しないため、繁殖成功に同調性雌雄異熟は有効であると予測される。野外調査において、調査日毎に各花の性フェーズを記録し、花序レベル、株レベルでの雌雄の同調性を評価した。次に、花序の花数や性比が送粉者行動に与える影響を評価するため、花序への訪問数と花序内訪花数を記録した。さらに、開花時の性表現が種子生産に与える影響を、結実率により評価した。花序レベルの同調性雌雄異熟は、開花期前半で顕著だったが、その後同調程度は減少した。また、株レベルでの同調は見られなかった。花序内の雄フェーズの花の割合が高いほど送粉者による花序への訪問回数はやや増えるが、花序内訪花数は増えなかった。さらに、雄フェーズの花の増加は、花序内の雌フェーズの花の結実率を減少させた。これらから、求基的に開花する総状花序においては、花序単位での同調性雌雄異熟が、隣花受粉を防ぐために不可欠な形質であると考えられる。それにも関わらず、同調性雌雄異熟が開花期後半に見られないのは、送粉効率でない何らかの要因が作用していると推測される。


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