| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-05  (Oral presentation)

日本の山地渓畔林を地形-植生構造、種構成から再考する
Reconsideration of the mountainous riparian forests of Japan based on topography-vegetation patterns and flora

*近藤博史, 酒井暁子(横浜国立大学)
*Hirofumi KONDO, Akiko SAKAI(Yokohama Nat. Univ.)

日本の渓畔林は、冷温帯落葉樹林の渓流域に成立するのが一般的であり、サワグルミやトチノキ、カツラ、シオジ等の渓畔種とよばれる特徴的な樹種が優占林を形成する。しかし、冷温帯以外の渓畔林構成種についての知見は少ない。
本研究では、日本の渓畔林が成立する地形・気候条件を精密にかつ全国的に明らかにし、暖温帯常緑広葉樹林から亜高山帯針葉樹林、北海道等の渓畔樹種と群落の分布について定量的な解析を行った。
渓畔種の分布情報として、全国植生データベースを元に、冷温帯渓畔種とされるサワグルミ、トチノキ、カツラ、シオジの何れかが高木層に優占度2以上で出現する群落を抽出した。渓畔種の立地環境を評価する指標として、気候変数、地形変数、土地利用状況等のラスタデータをGISで作成し、各群落地点の環境値として抽出した。それらを用いてMaxentによる冷温帯渓畔種の生育適地を解析した。また、標高と温度条件を除いたモデルを構築し選出された渓畔種生育適地を渓畔域とし、その渓畔域における群落の優占種を亜高山帯、暖温帯、北海道でそれぞれ抽出した。これらから全国的な渓畔林構成種・群落を評価した。
亜高山帯渓畔域では、オオシラビソ、シラビソ等の常緑針葉樹とダケカンバ、オオバヤナギ等の先駆種が優占する群落が多く、殆どが自然植生であった。暖温帯渓畔域では、ケヤキが優占する群落が最も多く、常緑広葉樹のアラカシ、ウラジロガシ、スダジイ等も優占した。冷温帯渓畔域では、サワグルミとケヤキの優占する群落が多く、さらに多雪地でブナ、少雪地でイヌブナとシオジの優占する群落が多かった。しかし、暖温帯と冷温帯の渓畔域はスギ人工林やコナラ二次林等の植林や代償植生も多かった。北海道渓畔域では、ハルニレ、ヤチダモ、トドマツ等が優占する群落が多かった。
本研究結果は、一般的に、渓畔域には水辺に限定した樹種・群落が分布するだけではなく、本来山腹斜面における優占樹種や群落もまた渓畔域に分布していることを示している。


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