| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-11 (Oral presentation)
フモトミズナラは、主根を斜めに伸ばすという独特の性質をもっている。この性質はで乾燥が激しい尾根の痩せ地に生育する適応である。この根の斜行という性質は、東海地方の地史と深く関わっている。過去に広大な東海湖が形成され、周辺の山地から河川を通じて運ばれた砂礫が堆積し、のちにそれが隆起して東海層群を形成した。およそ三百万年前頃に東海湖が最大になり、このとき堆積した大きな礫を含む砂礫層が丘陵の尾根を形成した。この地史的変動の過程で、フモトミズナラが誕生したと推測しうる。 フモトミズナラの誕生の過程を推論すると次のとおりである。過去に、大陸のモンゴリナラが日本列島に侵入し、東海地方まで分布を拡大したであろう。上記の地史的な大きな環境変動の時期に、モンゴリナラの個体群が分断され、祖先種の束縛から解き放たれ、フモトミズナラが誕生したのであろう。種の誕生、いわゆる種分化は、個々の形質を変化させる通常の遺伝子突然変異では生じにくく、調節遺伝子の突然変異をともなったであろう。
フモトミズナラは標高ですみ分ける傾向があるが、両者の分布が重なる地域では雑種形成が頻繁に雑種形成が進んでいると考えられる。東海地方で起源したフモトミズナラは関東地方まで分布域を拡大したのちに、長野県の飯田周辺を除いて、中間地域の個体群は絶滅したと考えられる。関東地方のフモトミズナラも根が斜行するが、これは平行進化によって生じたとは考えにくい。重力に逆らって根を伸ばす性質は、調節遺伝子の変化を含めた大きな変化だからである。関東地方で根の斜行が独自に生じたというよりは、東海地方のフモトミズナラ個体群が種子分散で分布を拡大したと解釈するのが妥当である。
演者は、フモトミズナラを独立種 (Quercus mongolicoides) として位置付けた (Hiroki 2017)。