| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-03  (Oral presentation)

カタツムリの糞は擬態のモデルとなり得るか?ダミーキャタピラによる検証
Do snail feces serve as model of masquerade? A test using dummy caterpillars.

*水野尊文(西双版納熱帯植物園), 潘霞(プーアル大学), 中村彰宏(西双版納熱帯植物園)
*Takafumi MIZUNO(XTBG), Xia PAN(Pu'er college), Akihiro NAKAMURA(XTBG)

捕食圧は防衛戦略を進化させる重要な要因であるが、各捕食者の相対的な重要度や防衛戦略に対する反応は時期により変化し得る。そのため防衛戦略の効果やその進化のプロセスを理解するためには、各捕食者に対する防衛戦略の効果の時間的変化を把握することが重要である。柔らかい外皮を持ち素早く移動できない完全変態昆虫の幼虫にとって外見的特徴は重要な防衛戦略の一つである。中国南西部の熱帯地域の西双版納の森林では体を巻いた体勢で葉の表面で休む黒い体色のハバチ幼虫が観察され、その外見はカタツムリの糞に似ている。この幼虫の体色と体勢がカタツムリの糞に対する擬態として機能しているのか、または擬態とは関係なく色と体勢が単純に捕食回避に有利なのかを鳥からの捕食率に着目して検証した。さらに鳥以外の捕食者も含め、色や体勢が与える影響とその時間的変化を検証するために4月から10月にかけて5回の実験を行った。真っすぐな形と巻いた形の二つの体勢のダミーキャタピラーを黒、白、緑の粘土で作り野外に設置し、回収したダミーに残された噛み痕から捕食者の種類と捕食率を推測した。鳥からの捕食率は緑よりも黒、白のダミーで低く、また巻いた形のダミーの方が低かったが、色と形の間に交互作用はなく、黒―巻きダミーの防衛効果とカタツムリ糞のサイズや数との間に相関はなかったことから、このハバチ幼虫の体色と体勢は擬態ではないものの、それぞれが鳥からの捕食回避に効果があることが示された。全ての噛み痕の内、アリの噛み痕が最も多く50%以上を占めており、その他は多い順に刺し傷(寄生蜂かサシガメ)、不明、ハチ、キリギリス、鳥であった。色や形の影響は鳥以外の捕食者に対しても認められ、捕食率がピークとなる時期は捕食者間で大きく異なっていた。この結果は各捕食者が与える捕食圧は時間的に変化するために防衛戦略の効果も変化し得ることを示唆している。


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