| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-04  (Oral presentation)

脊椎骨コラーゲンの安定同位体比が明らかにする仙台湾ヒラメの生息環境履歴
Stable isotope ratios of vertebral collagen reveal habitat history of Japanese flounder in Sendai Bay

*加藤義和(名古屋大), 冨樫博幸(東北水研), 栗田豊(東北水研), 長田穣(東北大), 天野洋典(福島海洋研), 由水千景(総合地球環境学研究所), 鎌内宏光(名古屋大), 陀安一郎(総合地球環境学研究所)
*Yoshikazu KATO(Nagoya Univ.), Hiroyuki TOGASHI(Tohoku Nat. Fish. Res. Inst.), Yutaka KURITA(Tohoku Nat. Fish. Res. Inst.), Yutaka OSADA(Tohoku Univ.), Yosuke AMANO(FMSRC), Chikage YOSHIMIZU(RIHN), Hiromitsu KAMAUCHI(Nagoya Univ.), Ichiro TAYASU(RIHN)

 生物体に含まれる炭素および窒素安定同位体比(δ13C、δ15N)はこれまで、生物の移動履歴や食物網構造、栄養段階の解明に大いに役立ってきた。近年になって、脊椎骨に含まれる成分の安定同位体を使って個体の生息環境履歴を推定する手法が発展しつつある。硬骨魚類の脊椎骨椎体の内側は円錐状構造になっており、個体の成長に伴い、軟組織が円錐体外縁に層状に発達する。そのため椎体には、樹木の年輪や魚類耳石の日輪と同様、同心円状の層状組織が形成される。そこで、この椎体を層別に切り分けて分析することにより、生物の成長に沿った同位体比の変化を追跡することができる。椎体の円錐組織にはコラーゲンが含まれ、成長時の餌変化が保存されることが知られている。従って、椎体コラーゲンの分析により、成長に伴うδ13C、δ15Nの変化を個体単位で得ることができる。さらに、多くの個体から得た時系列データを基に、季節変動、年変動のような「個体に共通する変化」を取り除き、「個体ごとの生息環境履歴」のパターンを明確化できる。
 本研究では、仙台湾に生息するヒラメ(Paralichthys olivaceus)を対象として、沖合の様々な地点で捕獲された成魚の同位体履歴を解析した。まず、脊椎骨外縁のコラーゲンと筋肉のδ13C、δ15Nを比較することで、脊椎骨分析の有効性を確認した。続いて、個体ごとの生息場所履歴の違いや、栄養段階の上昇、食物網のベースラインの変化などを検出した。最後に、スペクトル解析によって得られた同位体変化パターンの生態学的な意味について検討した。
 今後は、脊椎骨椎体を用いた手法の精緻化を進めると同時に、耳石をはじめとするさまざまな部位を用いた解析、アイソスケープなどの環境情報と組み合わせることによって、個体ベースでの生息環境履歴の推定をより統合的に進めていくことができるだろう。


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