| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-08  (Oral presentation)

絶対単為生殖型ミジンコにおける複数クローンの共存機構: storage仮説の検証
Why are different clonal populations of obligate parthenogenetic Daphnia pulex able to coexist sympatrically ? : a test of storage hypothesis

*丸岡奈津美, 八巻健有, 占部城太郎(東北大院・生命)
*Natsumi MARUOKA, Kenyu YAMAKI, Jotaro URABE(Tohoku Univ.)

 日本の平地湖沼に生息するDaphnia pulex (和名:ミジンコ) は北米からの侵入種であり、有性生殖をしない絶対単為生殖型であることがわかっている (So et al. 2015)。日本には4つの遺伝系統 (JPN1-4) が侵入しており、系統内には侵入後に分岐したと考えられる複数のクローンが存在する。多くの場合、1湖沼につき1クローンが分布しているが、1湖沼に複数クローンが分布している湖沼も稀ではなく、例えば、山形県畑谷大沼ではD. pulexの2クローン (JPN1A1, JPN2G) が同所的に観察されている。両者は同種であり、餌は共通しているため野外では強い競争関係にあると推定される。それにも関わらず、両者が同所的に生息できる理由は明らかでない。そこで本研究では、(1) 山形県畑谷大沼におけるD. pulex 2クローンの共存は本当に長期間継続しているのか、(2) 両者の餌を巡る競争関係には、実際に優劣があるのか、また、(3) 優劣があるならば、競争劣位クローンはいかに絶滅を回避しているかを明らかにすることを目的とした。
 (1)の検証は、畑谷大沼にて2009年から10年間にわたって継続的に採集された試料を用いて行った。(2)と(3)は、実験室内にて、畑谷大沼で採集されたD. pulex 2クローン個体を72日間にわたって混合飼育する競争実験を行い、個体群動態と休眠卵生産を観察することで調べた。
 その結果、畑谷大沼では少なくとも10年間はこのD. pulex 2クローン集団は継続的に共存し、季節的もしくは空間的なすみ分けも起こっていないことがわかった。しかし、競争実験では2クローンの間には競争関係の優劣があり、JPN2Gの競争排除が生じた。ただし、クローン間で1個体あたり休眠卵生産量に違いはないものの、JPN2GはJPN1A1より早く休眠卵を生産し始めることがわかった。
 以上の結果から、餌を巡る競争に劣位なクローンは、すばやく休眠卵を生産することによって競争を避け、絶滅を回避することで競争優位クローンと長期にわたって共存していることが示唆された。


日本生態学会