| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-09 (Oral presentation)
温度変化は、代謝速度や死亡率の変化を通して、生物の個体群動態に影響を及ぼす可能性がある。しかし、このことを野外の生物集団において実証するのは容易ではない。温度変化を生じさせるような野外操作実験には大きなコストがかかるし、仮にそれが可能であったとしても、温度変化はさまざまなプロセスを通して生物集団に影響し、それぞれの影響は状況依存的に複雑に変化することが期待されるためである。
野外において温度変化が個体群動態に及ぼす影響の評価は、非線形時系列予測を用いることで可能かもしれない。非線形時系列予測は、具体的な数式を想定することなく、観測データに基づく予測モデルの構築を可能にする。モデル作成に用いる教師データの期間と予測を行うテストデータの期間を別に設定すると、両期間の個体群動態が似ている場合は予測精度が高くなるが、似ていない場合は低くなる。このことを利用すれば、予測精度を指標に、異なる期間の間の個体群動態の類似性を評価できる。
本研究では、野外で観測によって得られた個体群密度の時系列データより、温度変化に伴って生じることが期待される個体群動態の変化の検出を試みた。解析に供したのは、原発温排水の停止・放出にともなう水温変化を経験した福井県内浦湾の魚類群集観測データである。水温変化に影響を受けた魚種では、原発稼働前後の期間の個体群動態の類似性が低くなることが期待される。そこで、様々な魚種に対し、観測期間内の異なるデータ部分間の非線形時系列予測を行い、個体群動態の類似性評価をおこなった。その結果、解析した全27魚種のうち13種では、個体群動態の類似性の大規模な低下が原発稼働を境に生じており、水温変化が様々な魚種の個体数動態を変化させた可能性が示唆された。さらに、類似度が変化するタイミングが魚種によって異なっていたが、これは各魚種の水温変化に対する敏感性の違いを反映している可能性がある。