| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-10  (Oral presentation)

東南アジアの河川における通し回遊性魚類の回遊規模の推定 【B】
Migratory scale estimation of riverine diadromous fish in Southeast Asia 【B】

*飯田碧(新潟大学佐渡セ臨海), Hau Duc TRAN(Hanoi Nat. Univ. Edu.), Herminie P. PALLA(West. Philipp. Univ.), 小林大純(琉球大・熱生研), 白井厚太朗(東大大気海洋研), 前田健(OIST)
*Midori IIDA(SMBS, Niigata Univ.), Hau Duc TRAN(Hanoi Nat. Univ. Edu.), Herminie P. PALLA(West. Philipp. Univ.), Hirozumi KOBAYASHI(TBRC, Univ. Ryukyus), Kotaro SHIRAI(AORI, Univ. Tokyo), Ken MAEDA(OIST)

魚類の回遊規模は,数千キロから数百メートルのものまで様々であり,分散の範囲や分布域に影響を及ぼす。川と海を回遊する通し回遊魚には多くのハゼ類が含まれ,太平洋に広く分散する種から一つの島の固有種までその分散範囲はさまざまである。東南アジアの河川には多くのハゼ類が生息し,それぞれ異なる回遊規模を持つと推測されるが,ほとんどの種は回遊するかどうかさえ明らかでない。本研究は,ベトナムとフィリピンの河川に生息するハゼ類の回遊規模を推定することを目的とした。
2016年から2018年にフィリピンのパラワン島とベトナムの北部および中部の河川で採集した16種,41個体について,耳石の微量元素分析を行った。得られたSr:Ca比から回遊パタンを調べ,河川内の淡水域や汽水域に留まるのか,海に生息していた期間があったのか推定した。ベトナムの河川で採集されたヨシノボリ属9種のうち,仔魚期を海で過ごしたことが明確に示されたのは、ゴクラクハゼを含む2種のみであった。その他の7種は,淡水に留まるか,流下しても汽水までと推測された。成魚の生息範囲と回遊規模に明瞭な関係性は見られなかった。上流域ではナンヨウボウズハゼ属とPapuligobius属が同所的に生息していたが,前者は明瞭に海洋生活期を持ち,後者は完全な淡水性であった。一方,フィリピンでは異なるパタンが見られた。ボウズハゼ亜科の2種は,滝のある河川でも海で仔魚期を過ごしていたが,2種のヨシノボリ属は淡水性で,下流で採集された個体でも海や汽水への回遊は行っていなかった。これらの結果より,分類群による回遊規模の違いに加えて,近縁種間でも回遊規模が種ごとに異なることが明らかとなった。それらは河川における生息流域とは無関係であり,回遊規模を決める要因についてはさらなる生態的な研究が必要である。


日本生態学会