| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-02  (Oral presentation)

消雪の早晩がブナ林冠木の開葉時期に及ぼす影響
Effects of the timing of snowmelt on leaf-out phenology of Fagus crenata canopy trees

*石田清(弘前大学), 杉本咲(弘前大学), 川邉慎也(東武緑地(株)), 宮沢良行(九州大学)
*Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.), Saki SUGIMOTO(Hirosaki Univ.), Shinya KAWABE(Tobu Ryokuchi Co.,Ltd.), Yoshiyuki MIYAZAWA(Kyushu Univ.)

北日本や北米太平洋沿岸地域は温帯域のなかでは積雪量が多く、多雪環境に適応した樹木群集が森林生態系を形成している。積雪環境の季節変化に対する樹木の適応戦略についての知見は、気候温暖化に対する多雪地域の生態系の応答を予測するうえで重要である。本研究では、落葉樹ブナの林冠木を対象として多雪山地における消雪時期と開芽時期との関係を分析した。分析は、青森県八甲田連峰において積雪深の異なる9地点に設置したカメラと温度計で得られた9年間のデータを用いて行った。開芽時期を表す指標として開芽積算温度(1/1~開芽日の積算気温;閾値5℃)を用い、消雪時の環境条件を表す指標として消雪日と消雪時気温(消雪前10日間の平均気温)を使用した。分析では冷温日数(11/1~開芽日の日平均気温0~5℃の日数)も考慮した。これらの要因を変数とする線形混合モデルを用いて場所間変異を分析した結果、開芽積算温度は消雪が遅い地点や消雪時気温が高い地点ほど大きかった。この結果から、消雪が遅い場所のブナ集団は積雪上での着葉期間を短くすることに適したフェノロジー特性を持つといえる。一方、開芽積算温度の年度間変異は逆の傾向を示し、消雪が早い年や消雪時気温が低い年に値が大きくなる傾向が認められた。この結果は、ブナは消雪時の気温や日長などの情報を利用することにより、消雪が早い年は消雪後の温度上昇によって開芽が早まりすぎないように分裂組織の成長速度を抑制していることを示唆している。可塑性についてのこの推論を検証するため、同連峰の積雪深の異なる2地点で4月上旬にブナの幹周りの除雪を行い、消雪早期化の影響を調べた結果、以上の結果と矛盾しない傾向が認められた。以上のことから、多雪地のブナ集団は生育地の積雪環境条件に適した開芽時期を進化させていること、また、消雪日が大きく年変動しても開芽日の変動幅を小さくするように調節する機構を持つことが示唆される。


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