| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-04 (Oral presentation)
高山植生は、特有の樹種で構成されていることや樹木の分布境界域が存在することから、環境変動に対する生物多様性の脆弱性が指摘されている地域である。標高が上昇すると、低温、強風、冬季の積雪および土壌栄養の低下など植物の成長に厳しい環境条件となる。本研究では、高標高下の樹木の光合成および水利用特性を明らかにすることを目的として、長野県の北アルプスに位置する乗鞍岳(標高3,026 m)の高木限界(2,500 m)に優占する落葉広葉樹(ウラジロナナカマド、ダケカンバ)および常緑針葉樹(オオシラビソ、ハイマツ)を対象に、個葉光合成、気孔コンダクタンスおよび水ポテンシャルの日変化測定、P-V曲線法による葉の水分特性評価、またSPAC(soil-plant-atmosphere-continuum)モデルを用いた個体の水利用特性評価を行った。調査は、2018年7月末から8月初旬、2019年7月末から8月初旬および9月中旬にかけて行った。本研究の結果、光合成および水利用特性には、落葉樹と針葉樹の違いのみでなく、各樹種に特徴的な傾向が見られた。すなわち、同じ落葉広葉樹においても、ウラジロナナカマドは、気孔制御や葉の浸透調節を行っており、水分保持的な応答をしていることが示されたが、一方でダケカンバは、土壌―葉の通水性が高いことにより高い光合成・蒸散速度を維持し、水分消費的な応答をしていることが示された。また、常緑針葉樹において、オオシラビソは、気孔制御により水利用効率を高め、光合成速度を維持していることが示された。一方でハイマツは、葉の細胞壁の弾性率や貯水性が高く、常に安定した光合成を維持する通水特性を持つことが示された。