| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) I02-08  (Oral presentation)

個葉の分光特性とPEOSPECTモデルの逆解析により得た解剖学的特性の季節変化 【B】
Phenological changes in leaf optical properties and anatomical traits, estimated by inversion of the PROSPECT model 【B】

*野田響(国立環境研), 奈佐原顕郎(筑波大), 村岡裕由(岐阜大)
*Hibiki NODA(NIES), Kenlo Nishida NASAHARA(Univ. Tsukuba), Hiroyuki MURAOKA(Gifu Univ.)

葉の分光特性(分光反射率,透過率)は,色素量などの生化学的な特性および葉の解剖学的な特性により決定される。落葉樹では,展葉から落葉までの期間にこれらの生化学的・解剖学的特性が季節的に大きく変化することが知られている。本研究では,葉の分光特性の季節性について理解するため,冷温帯落葉広葉樹林において,優占樹種であるダケカンバとミズナラ(陽葉と陰葉)について,2003年から2005年および2010年の計4年間,展葉開始(5月末)から落葉(10月末)までの間に個葉の分光特性測定を行った。さらに,葉の解剖学的特性の変化と分光特性との関係を理解するため,観測した分光特性をPROSPECT-5(Feret et al. 2008)により逆解析し,葉肉細胞の構造を示す変数Nの値を求めた。このモデルでは,葉肉組織を空気の層を挟んだN枚のプレートを重ねたものとみなして葉内の放射伝達をシミュレートする。
展葉から7月下旬までの葉の成長期間に,光合成可能波長領域における反射率は緩やかに減少したのに対して,透過率は急激に減少した。この間,近赤外域の反射率は上昇し,透過率は減少した。推定されたNの値は,展葉直後に低く,その後,急激に上昇しており,葉肉組織の発達の様子を示しているものと考えられる。成熟葉のNは,ダケカンバがミズナラよりも高く,ミズナラでは陽葉が陰葉よりも高かった。成長期のNの変化は,平均気温0℃以上の積算温度に対するシグモイド曲線として表現することができた。シグモイド曲線を比較すると,ミズナラの陽葉と陰葉は,展葉直後はほぼ同じ曲線を辿って上昇し,陰葉が先に上昇を止めた結果,成熟後は陽葉のNが高くなることが示された。さらに,PROSPECT-5の解析により,成長期間における反射率と透過率の季節変化パターンの違いは,葉肉組織が発達することにより起こることが示された。


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