| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L01-01 (Oral presentation)
樹木の生活史の後期には,肥大成長に比べて伸長成長が抑制されるようになることが知られている。この現象は従来,水分生理や力学的支持の限界から説明されてきた。しかし他にも,林冠到達前後の急激な環境変化や,本格的な繁殖ステージへの移行といった,個体成長に伴う物質収支や資源配分の急激な変化が関与している可能性がある。もしこれらの現象の関与が大きければ,樹高と直径の回帰関係(D-H関係)は,林冠到達や繁殖開始の時点で屈曲する折れ線を示すだろう。
そこで,小川群落保護林の主要な13種の落葉広葉樹について,それらの種のD-H関係が,折れ線回帰モデルとよく使われる曲線型モデル(相対成長曲線・Thomasの飽和型曲線)のどちらでよりよく代表されるかを検討した。ここでは,パラメタの種間差をランダム効果で表すベイズモデルを用いて13種のデータを一気にモデリングすることにより,種ごとのサイズ分布が推定結果に及ぼしうる影響を回避した。推定された折れ線型のモデルは,曲線型のモデルよりもWAICが小さく,高い予測性が認められた。この結果はD-H関係が閾値変化している可能性を示唆する。折れ線型モデルでは13種のうち11種について,屈曲点の存在が検出された。
この調査地では長期観察によって,樹種ごとの安定開花サイズ(その樹種の殆どの個体が開花する閾値サイズ;Shibata and Tanaka 2002)が推定されている。今回推定された屈曲点の樹高は,多くの樹種において,この安定開花サイズの近傍に位置していた。うち8樹種では,屈曲点は林冠層に存在していた。これらの樹種では,樹冠が林冠へ到達する前後に,伸長成長から開花への資源配分の変化を伴う生活史段階の変化が起こっていると推測される。一方,亜高木2種(ヒナウチワカエデとハクウンボク)では,屈曲点と安定開花サイズはともに亜高木層に存在した。これらの樹種では林冠への到達を待たずに,伸長から開花への生活史段階の変化が起こっていると考えられる。