| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L01-03 (Oral presentation)
陸上植物の多くは菌根菌と共生しており,土壌の無機塩類と光合成産物を互いにやり取りする相利共生の関係を成立させている.しかしながら,植物の中には,光合成をやめ,菌根菌を騙し養分を貢がせるという特異な進化を遂げた菌従属栄養植物が存在する.菌従属栄養植物の多くは,もともとは相利共生相手だった菌根菌に寄生するようになった裏切り者(チーター)であることが知られている.一方で,培養実験などによって,本来は菌根を作らない腐朽菌に依存する菌従属栄養植物が存在することが,強く示唆されてきた.しかし近年,菌類の栄養摂取様式が一義的に決定できないことも明らかになり,それらの菌従属栄養植物の炭素源が腐食連鎖由来である確固たる証拠が求められていた.
そこで,我々は,1950年代~1960年代初頭にかけて大気圏内の核実験により大気中に多量の放射性炭素同位体が放出されたこと,また大気圏内核実験禁止後に放射性炭素同位体が徐々に減少してきたことを利用して,菌従属栄養植物の生体内の炭素がいつ光合成によって固定されたかを検討した.その結果,一部の菌従属栄養植物は,数十年前に植物によって固定された炭素を利用していることが明らかになった.このことは,確かに菌従属栄養植物の一部が,腐朽菌の菌糸を通じて枯れ木から炭素を得ていることを証明するものである.
菌従属栄養植物は,自身が生物の死体を分解する能力があるという誤解により,かつて「腐生植物」と呼ばれていた.植物自体が腐朽能力を持つ,真の意味での「腐生植物」は存在しないが,本研究により,菌従属栄養植物の一部が,間接的に腐食連鎖系に依存していることが明らかになった.菌類が果たす重要な生態系機能として,「菌根共生」と「分解」が挙げられるが,菌従属栄養植物は,この両者を搾取することに成功した稀有な存在であるといえる.