| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-04  (Oral presentation)

シロツメクサの都市適応か?北海道内におけるHCN生産性の変異
Urban evolution in white clover? Variation in HCN production in Hokkaido

*内海俊介(北海道大学FSC), 安東義乃(北海道大学FSC), Marc JOHNSON(Missisauga, Toronto Univ)
*Shunsuke UTSUMI(FSC, Hokkaido Univ), Yoshino ANDO(FSC, Hokkaido Univ), Marc JOHNSON(Missisauga, Toronto Univ)

都市化は地球全体で進行している事象であり、数千の都市が地上の3%を占める。都市では、気温や植生被度など、郊外とは大きく異なる環境が作られている。そのため都市化が生物の数や分布に及ぼす影響について多くの研究が蓄積されてきた。また、特異な環境をもつ都市は、数や分布だけでなく生物の遺伝的構成や進化に対するインパクトを持つ可能性がある。その上、都市が有する共通の景観的・環境的特徴から、世界中で進化の反復実験が行われていると捉えることができる。しかし、都市化が生物の適応進化に与える影響については近年注目されてきたばかりで、いまだ知見は限定的である。そこで本研究では、世界中に分布するシロツメクサを対象に、北海道における都市化がその被食防衛形質の進化に与える影響について調べることを目的として行った。
シロツメクサは被食を受けると、シアン化水素(HCN)を発生させる防衛形質を有する。これはシアン配糖体が酵素によって加水分解されることによって生成される。HCN生成の有無は2遺伝子のメンデル遺伝によって決定される。
われわれは、札幌中心部から郊外にかけてトランセクトを設置し、43個の調査地点を設けた。そして、各調査地点で25個体のシロツメクサを採取し、HCN生成の有無のスクリーニングを行った。次に、調査地点の30年間の平均気温についてGISを用いて推定した。さらに、都市化が進行していない北海道内の複数地点においてもHCN生成のスクリーニングを行った。
HCN生成個体の割合は、都市中心部から郊外にかけて有意に増加した。このトランセクトに沿って、平均気温は単調に減少していた。また、過去の衛星画像により、都市中心部ほど融雪が早いということも明らかになった。一方、都市化が進んでいない地域の調査では、いずれもHCN生成個体の割合は低かった。本研究は、都市がHCN生成の進化を引き起こしていることを示唆する。


日本生態学会