| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L02-03  (Oral presentation)

ゲノム情報から読み解くハワイフトモモの種内多様化プロセス
Ecological divergence in Metrosideros polymorpha revealed by the whole genome sequencing

*伊津野彩子(森林総合研究所), 小野田雄介(京都大学農学研究科), 甘田岳(京都大学農学研究科), 小林慧人(京都大学農学研究科), 向井真那(京都大学農学研究科), 井鷺裕司(京都大学農学研究科), Elizabeth A. STACY(University of Nevada Las Vegas), Tomoko SAKISHIMA(University of Nevada Las Vegas), 清水健太郎(チューリッヒ大学)
*Ayako IZUNO(FFPRI), Yusuke ONODA(Kyoto University), Gaku AMADA(Kyoto University), Keito KOBAYASHI(Kyoto University), Mana MUKAI(Kyoto University), Yuji ISAGI(Kyoto University), Elizabeth A. STACY(University of Nevada Las Vegas), Tomoko SAKISHIMA(University of Nevada Las Vegas), Kentaro K. SHIMIZU(University of Zurich)

ハワイフトモモは、1種でありながら著しい形質進化を伴ってハワイ諸島の多様な環境への適応を遂げたことが知られている。我々はすでにゲノムアセンブリを報告しており、樹木の生態的種分化機構と適応放散について解析するためのモデル生物である。本種内に見られる生態的な分化をもたらしたデモグラフィーと自然選択を解明するため、ハワイ島における本種の生育域を網羅するように採取した70個体について、全ゲノム配列多型を解析した。ゲノムワイドSNPにおいて算出した遺伝的距離から、70個体は葉形質や生育環境に応じて3つの集団 (亜高山帯・雲霧林帯・低地乾燥帯) に分化していることが示され、雲霧林帯集団において特に高い遺伝的多様性が認められた。コアレセントシミュレーションにより推定された集団分岐モデルでは、最も祖先的な雲霧林帯集団がハワイ諸島へ定着した後に、まもなく亜高山帯集団が生じ、その後に低地乾燥帯集団が分岐した。現在ハワイ島に見られる3集団は互いに隣接して生育することもあり、集団間では遺伝子流動が維持されているが、亜高山帯集団が分岐した当初の遺伝子交流はわずかであり、異所的に生態的な分化が促進された時期があった可能性がある。選択的一掃の痕跡を示すゲノム領域を探索した結果、祖先集団から早くに分岐した亜高山帯集団では、低地乾燥帯集団と比較して少数のゲノム領域が強い自然選択を受けていた。亜高山帯集団では、一領域中に隣接して存在する強光ストレス応答に関わる遺伝子群が、低地乾燥帯集団では、ゲノム中に散在する乾燥耐性や熱応答に関わる遺伝子が強い選択を受けている可能性が示唆された。以上より、ハワイフトモモ種内に見られる独自の生態ニッチを有する集団は、それぞれ異なる自然選択とデモグラフィーの影響を受けて創出・維持されていることが明らかになった。


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