| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-05 (Oral presentation)
バラは世界的に有名な園芸植物であり栽培の歴史も古く、これまで交配育種によって3万品種余りの多様な品種が育成された。しかしながら、元となった原種は8種程度とされており、遺伝的多様性が低い。そのため、耐病性が低い問題があり、バラの栽培には農薬散布が不可欠な状況になっている。耐病性を高めるためには、野生種を新たな交配材料とする必要があるが、花の匂いや色など栽培バラで好まれている性質は残しておくことが望ましい。そこで、現代の栽培バラに四季咲き性をもたらしたことで知られる中国古来の栽培品種コウシンバラに着目し、この野生起源を調べることにした。コウシンバラはほぼすべての現代バラの先祖となっているため、コウシンバラに遺伝的に近い野生種は耐病性を付与する際の希少な育種素材となる可能性が高い。コウシンバラの起源があるとされる中国四川省において、候補となる野生種を採取し、DNA塩基配列をコウシンバラと比較する方法でコウシンバラの起源となった野生種を特定することを目的とした。その際、四季咲き性と八重花の原因遺伝子に着目した。野生種は一季咲き性で一重花であるが、それぞれKSNとAP2と呼ばれる遺伝子にトランスポゾンが挿入したことで、コウシンバラでは四季咲き性で八重花になっていることが分かっている。そのため、コウシンバラの遺伝子配列からトランスポゾン部分を削除した元配列を作り、これと一致する野生種を探すことにした。30株余りの野生バラを解析した結果、コウシンバラのKSNの塩基配列と完全に一致する野生バラは峨眉山で採取されたRosa chinensis var. spontaneaであった。一方、AP2の配列を比較すると、コウシンバラのAP2は、R. chinensis var. spontaneaだけでなく、R. giganteaやR. multifloraとの雑種配列である可能性が示唆された。発表ではトランスポゾンの由来やゲノム全体の配列類似性に関する解析結果も加えてコウシンバラの野生起源について検証した結果を発表する。