| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-10 (Oral presentation)
平行進化は多様な分類群の様々な形質で報告されており,そのいくつかは祖先多型や種間交雑による遺伝子の水平移動によることが近年のゲノミクス研究により解明されつつある.Nomorhamphus属は,インドネシアのスラウェシ島とフィリピンに固有の淡水性コモチサヨリ科魚類で,特にスラウェシ島では,下顎の伸長部(以下,嘴)の長さが種ごとに多様で,極端に長い種から完全に嘴が退化した種まで幅広く存在する.これらの異なる嘴型をもつ種はそれぞれ島内で広域に分布することから,スラウェシのサヨリの嘴形態は,(1)嘴形態の変化は稀にのみ生じ,異なる嘴長の種群が成立した後,それぞれ島内に分散した,あるいは,(2)島内で分散したのち,各地で嘴形態の多様化が平行的に生じた可能性が考えられる.そこで本研究では,スラウェシ島全域から収集した23集団のサヨリについて①下顎形態の評価,②系統関係の推定,③祖先形質推定を行い上記の仮説を検証した.
各集団は,嘴の平均相対長から,無嘴,短嘴,中嘴,長嘴の4つの型に区分できた.ミトコンドリアDNA,ゲノムワイドSNPsによる系統解析では,スラウェシの本属は単系統にまとまり,大きく3クレードから構成されていた.このうち2クレードには複数の嘴型の集団がそれぞれ内包されており,嘴の並行的な退化や短嘴種から長嘴種の再派生など,多様な下顎の進化パタンが見られた.本属は発生初期に嘴のない期間を経ることを考慮すると,これらのサヨリの双方向的な嘴形態の進化・退化パタンは,単純な新規形態の獲得や喪失ではなく,下顎の発生過程における異時的な調整によって創出されていると考えられた.講演では,本属魚類の下顎長の平行進化が種間交雑による遺伝子浸透によるものである可能性についても議論したい.