| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(口頭発表) L02-12  (Oral presentation)

生殖虫の除去がヤマトシロアリ属初期コロニーのカスト生産と性比に与える影響
Caste production and offspring sex ratios of termite incipient colonies after the removal of reprodctives.

石井朱音, *北出理(茨城大学)
Akane ISHII, *Osamu KITADE(Ibaraki Uniuersity)

 シロアリ類は消化管内にパラバサリア類・オキシモナス類の原生生物を複数種共生させている。通常、原生生物群集の種構成は宿主種に特異的である。
 ヤマトシロアリ属は、日本では北海道から八重山諸島にかけ7種が分布する。これまで、(1) 宿主種ごとに基本的な原生生物の種組成が定まっていること、(2) 組成の類似性は宿主の分布と対応し、特にトカラ列島以北に分布するヤマトシロアリとそれ以南の種の間で大きな組成の差があること、が示されている。しかしトカラ列島各島をはじめ、本属宿主の共生原生生物が未調査の島が残されていた。
  本研究では、鹿児島県トカラ列島(口之島、中之島、諏訪之瀬島、悪石島、宝島)、沖永良部島、与論島、沖縄県久米島、宮古島と近傍の諸島、多良間島、西表島、与那国島で本属宿主のコロニーを採集し、原生生物組成を調査した。採集したコロニーは、兵蟻形態の観察と、ミトコンドリアCOI・COII遺伝子の部分塩基配列に基づく系統推定を行った。さらに1コロニーにつき5個体の職蟻の共生原生生物を生きた状態で検鏡し、種組成を調べた。
 系統解析の結果、宿主系統もトカラ列島の南北で大きく2クレードに分かれた。ヤマトシロアリとアマミシロアリの分布境界域であるトカラ列島では、ヤマトシロアリ特異的な原生生物1種がアマミシロアリから見出された。沖永良部島では、アマミシロアリとオキナワシロアリに典型的なミトコンドリア遺伝子のハプロタイプがともに見つかったが、原生生物組成は全てアマミシロアリ型であった。与論島と久米島のオキナワシロアリは沖縄島と同じ原生生物組成であったが、宮古個体群とは1種が異なった。また、多良間島・与那国島は石垣島・西表島のヤエヤマシロアリと同じ組成を持っていた。兵蟻上唇の刺毛数にはトカラ列島で大きな変異が見られた。以上の結果から、組成の進化と過去の宿主の種間交雑の可能性について議論する。


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