| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-13 (Oral presentation)
性比調節の分野は、血縁者間の競争や協力の進化について考える格好の研究対象であり、これまでにも多くの成功を収めてきた。雄が分散しない状況では、血縁のある雄どうしの配偶相手をめぐる競争を避けるように性比は雌に偏る(局所的配偶競争,LMC)。反対に雌が分散しない場合は、血縁のある雌どうしの資源をめぐる競争を避けるように性比は雄に偏る(局所的資源競争,LRC)。一方、片方の性が分散せずに協力的な効果をもたらす場合は、性比はその性に偏ることが知られている(局所的資源増進,LRE)。今回我々は、それぞれの性の分散の強さや競争や協力の起こるタイミングによって、進化的に安定な性比にLMC,LRC,LREがそれぞれどのように作用するのかを区別して検討可能にする数理モデルを構築した。
本モデルは、LMC,LRC,LREが絡み合う様々な状況に応用することができる。例えば、寄生バチMelittobiaでは雄が分散しないため性比は雌側に偏るが、実際にはLMCの予測以上に極端に雌に偏る。Melittobiaでは雌が近隣の寄主を利用することがあり、その場合は血縁のある雌どうしが一緒に産卵する。このため、兄弟間だけでなく血縁のある息子間の競争(LMC)を避けるように性比はさらに雌に偏ると予測されるが、血縁のある雌間の資源競争(LRC)がそれを妨げるため、この効果だけでは本種の性比を十分に説明することはできない。しかし、本モデルにより、さらに寄主を利用する雌間の協力的な行動(LRE)を仮定すれば、本種の性比を定量的に説明できることが示された。Melittobiaでは、雌が他の雌の産卵している寄主を好むなど、協力的効果につながる行動が示唆されているため、LREを新たに考慮することによりその性比を説明できると考えられる。