| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-14 (Oral presentation)
ミトコンドリアや葉緑体に代表されるように、相利共生系では宿主と共生者が一つの生物として振る舞うようになることがある。このオルガネラ化はどのように生じるのか。その過程の一つとして、環境中の出会った相手と一時的な共生関係を結ぶ水平伝達型から、共生者が親から永続的に受け継がれる垂直伝達型への進化的移行が生じたとされている。しかし、この移行には問題がある。水平伝達型では、環境中の有象無象の相手と出会うので、非協力的な相手との関係を打ち切る制裁などが協力関係の進化的維持に必須である。ところが、水平伝達型から垂直伝達型への移行過程で垂直伝達率が高まると、環境中の有象無象の相手との出会いが減り、制裁は無用の長物となってしまう。その結果、移行の途中では、制裁が失われ、それにより相利共生系も崩壊してしまうという可能性が予測されるのである。そこで、本研究では、宿主による制裁と共生者による協力の共進化動態モデルを考え、相利共生系が途中で崩壊せずに水平伝達型から垂直伝達型へ移行しうる条件を導出した。モデルでは水平伝達と垂直伝達の両経路があり、共生者を垂直伝達する確率はパラメータとした。また、解析では、垂直伝達率が高くなるときに、制裁と協力がそれぞれ維持されるのかに注目し、Adaptive dynamics 理論を適用した。その結果、非常に広い条件の下で、垂直伝達率を高めると制裁が失われるものの、垂直伝達自体によって協力が維持されるようにうまく切り替わることが明らかになった。つまり、水平伝達型から垂直伝達型への移行は、その途中で相利共生系が崩壊することなく、容易に生じ得ると考えられる。また、制裁の様式や共生者の突然変異率などがある特別な場合には、この切り替わりがうまくいかず、移行の途中で相利共生系が崩壊することが明らかになった。これらの結果はオルガネラ化のみならず、共生系のもつ多様な伝達様式を説明する一助になると期待できる。