| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム MES01-2 (Presentation in Symposium)
次世代シークエンサーの登場・発展により、多岐にわたる生物群のゲノム情報、遺伝子発現情報が急速に蓄積している。生態学分野においても各生物のゲノム中に大量に存在する中立変異に着目し、遺伝的多様性の評価、集団構造や系統関係の解析を行うアプローチが広く用いられている。時間の経過とともにゲノムに蓄積していく中立変異だけではなく、環境中の刺激に応答して自然選択を受けた変異/遺伝子に着目して、その検出に取り組む生態学者も増えている。本発表では自然選択を受けた個々の変異/遺伝子ではなく、ゲノム全体を俯瞰すると見えてくるような生態系がゲノム全体の進化を駆動する現象について取り上げたい。高熱環境に生息する超好熱菌は、ゲノム全体にわたってグアニン(G)とシトシン(C)の含有量が高く、70%を超える種も知られている。これは、好熱菌が生息する環境刺激により、ゲノム全体が自然選択を受けた結果である。私はこれまでに、生息環境が多様な生物がゲノム中に多くの重複遺伝子を持つことを示してきた。さらに、網羅的なゲノム解析により、侵略的外来種のような環境適応力が高い種ではゲノム中の重複遺伝子含有量が高く、絶滅危惧種のような脆弱種では重複遺伝子含有量が低いパターンも見出した。また、進化生態学の分野において特に重要な生活史に関わる形質もゲノムの特徴をよく反映している。ゲノムのDNAメチルの程度と生物の寿命には相関があり、ゲノム配列のメチル化レベルから生物の寿命を推定可能である。また、出生率の高い海洋無脊椎動物は、遺伝的に多様で、ゲノム中の重複遺伝子含有量が高い。一方で、卵や子供の数が少ない動物では、ゲノムの遺伝的多様性が低く、ゲノム中の重複遺伝子含有量は極めて少ない。生態的な特徴とゲノムの因果関係については十分に理解されていないが、一連の研究成果は、生態系が個々の遺伝子だけでなく、ゲノム全体の進化を駆動する可能性を示唆している。